聖女
聖女は世界でただ一人と言われる存在。エリアスは初めて聖女に会った。
その柔らかなオーラと慈しみを感じる眼差し、聖女が近くにいるだけで人間が持つ欲が薄れてゆく。聖女は神の代理と呼ばれるだけあり特別な存在感があった。
エリアスは神聖女の清らかな力に驚いた。この人が隣にいれば心穏やかに一生が送れるとわかる。特別な人だと感じた。
聖女クルスは初めてあったエリアスの美しさと神々しさに驚いた。今まであったどの人間よりも神に近い人、エリアスは類稀な王と言われていると聞いたが、確かにその通りだとクルスは思った。そしてクルスはエリアスを一目見て好きになった。
神殿で神について話している時も深い教養と知識があり、穏やかで微笑みを絶やさぬエリアスに聖女は言った。
「運命を感じました」
エリアスは運命という言葉を聞いて胸が痛み何かを思い出しそうになった。胸に刻まれた文字に手当てクルスに聞こえぬよう呟いた。
『クララ・タピア』
*
「初めまして、クララ・タピアと申します。突然お邪魔して申し訳ありません」
クララはモリアーナ一家に向かって挨拶をした。先程庭園であったカルロスの父カシミロはクララをみてウィンクをした。カシミロをいてクララは吹き出しそうになったが、グッと堪え笑顔を浮かべた。
「噂で伺ってましたわ!クララ様!私くしカルロスの母カタリーナと申します、さっきはカシミロがごめんなさいね!」
カタリーナはクララにワイングラスを渡し、
「乾杯!」
と言って一気飲みした。
「うーん、美味しい!。ほらクララ様もお飲みなさい、飲まなきゃやってらんないわよ!」
カルロス母カタリーナはそう言ってクララの手を握り自分の隣に座らせクララにワインを勧めた。
(カルロスの人懐っこさはお母様譲りね)
クララは風の性質である自由をこのモリアーナ公爵家に見た。自分も自由でいて良いような気がし、クララの心も緩む。
(そういえばカルロスと初めて一緒に食事をとった時ワインをゴクゴク飲んでいたけど、このご家族だったら頷けるわ)
クララは昔を思い出しカルロスを見るとカルロスはすでにワインを飲み干していた。
「私はあまり飲めなくて」
クララがカタリーナに言った。しかしカタリーナはお構いなしにクララに勧める。
「ダメ!今日は吐くまで飲むのよ!モリアーナに来たからには付き合いなさい」
そう言ってクララと乾杯をした。カルロスはそんな二人を見て笑っている。
「はい、ではいただきます!」
クララもその場の雰囲気に流されどうでも良くなった。
(自由、とらわれることなくあるがまま)
クララはどうにでもなれと言う気持ちでワインを一気に飲みした。体の中が急激に熱くなる。心臓が呼び跳ね、気持ちも同じように軽やかになる。気分が上がり訳もなく楽しくなってきた。
「美味しい!!」
クララがそう言うとカタリーナは嬉しそうに笑いワインを勧める。
「ほらクララ様、あ,クララでいい?、クララ飲みなさい!」
有無を言わさずどんどんクララにワインを勧める。クララも調子が出てきた。
「わー、ありがとうございます!カタリーナ様!」
酔いが回り始めたクララが言う。
「お姉様と呼んで」
カタリーナはクララの頭をワシャワシャと撫でる。
(うふふ、カルロスそっくりな撫で方!)
クララは大笑いした。カルロスを見るとカルロスはクララに向かってワイングラスを掲げ飲み干した。クララも同じように飲み干し笑った。
「お姉様!お酒美味しいです!」
クララはカタリーナに言い、また二人は乾杯した。そこにカシミロも参入し三人は意味もなく笑いながらワインをどんどん空けていった。
そこにカルロスの兄エメリコと姉デシレーが加わりとうとうどんちゃん騒ぎになった。
「クララ・タピア!薔薇と炎!バンザイ」
カシミロが言うとモリアーナ一家は皆でバンザイを始める。底抜けに明るい家庭だ。
「おいクララ!お前空の精霊捕まえてなにしゅるんだ?」
カルロスは呂律が回っていない。クララは爆笑しながら言った。。
「あのね、空の精霊捕まえて神様と戦うんだ!私ね、ずっと前から神様大嫌いなの、エリアス様の執事のセルゲェーと同じくらい大っ嫌い!あははは!!」
「おお!クララ神様と戦うのかぁ!いいなぁ、俺も誘ってくれヨォ!」
カルロスが言った。
「カルロス明日になったら忘れちゃうでしょ?思い出したらたすけてねー!
」クララが言った。
「おお!任せろ!!俺とお前の仲じゃねーかぁ、なぁレオン」カルロスがいった。
「カルロス、レオンじゃないわよー、レオンは死んじゃったのよぉ」
「ちょっとそこ二人でコソコソと!」
カタリーナがクララにまたワインを注ぎ飲ませ言った。
「クララ、泣いて良いのよ」
カタリーナは突然そう言ってクララを抱きしめた。クララは不意打ちをくらった。ずっと一人で我慢していた思いを酔いに任せ解放した。
「ウッ、クスン……」
クララはカタリーナの胸の中で泣き始めた。酔っ払っているがどれだけ酔っても悲しみは消えない。わかっているが、ほんの少しで良い、忘れることができるならそれだけで救われる。
カタリーナは泣き続けるクララの髪を優しく撫でた。クララはカタリーナの温かさに救われる思いがした。
カタリーナはクララが素直に泣けるまで飲ませたのだ。その様子を見てカシミロとカルロスは頷いた。兄のエメリコはカタリーナの胸の中で泣き続けるクララにブランケットをかけ、姉のデシレーはクララの涙をハンカチで拭いクララがそのままカタリーナの胸の中で眠るまで手を握ってくれていた。