カルロスとの友情
クララは散策をしてみようと部屋から庭園に出た。庭園は低い木々が中心にあり、背の高い木々は生垣のように敷地の境界線に植えてある。だから解放感を感じたのだと納得しながら広い庭園を歩いていた。
「おーい,タピア公爵様!」
誰かが呼んでいる。男性の声だ。クララは声の方をみるとグリーンの髪にグリーンの瞳、カルロスそっくりな五十代位の男性が声をかけてきた。
「はい!今日は!」
クララはその男性に笑顔で答える。その男性も爽やかな笑顔で答え突如言った。
「うちの息子と結婚してくれませんか?タピア公爵様のような方が私の理想だなぁ!!」
そう言ってあははは!と笑い始めた。その笑顔は少年のようで悪意は全くない。クララもその人懐っこい笑顔につられ笑ってしまった。
「……あの、ところで、どなたでしょうか?」
クスクスと笑った後、クララは優しく微笑むその男性に聞いた。
「誰だと思う?当てたら一杯奢るよ!」
その顔はカルロスそっくりだ。間違いない。
「カルロスのお父様?」
「おお?お父様と言ったか?!我が息子の嫁よ!私が義理の父だ!」
そう言ってクララの両手を握りブンブンと上下に揺さぶり大笑いしている。クララもなんだかわからないが楽しい気持ちになり二人で手を取り合って大笑いしているとカルロスが現れた。
「親父!なにしてんだ?クララも」
カルロスは頭を掻きながら二人を見ている。その表情は呆れ果てているように見えるが、口角は上がっている。カルロスも楽しんでいることが丸見えだ。クララはイタズラ好きな少年の姉になったような気分になった。
「おお、我が息子。嫁を捕まえたぞ!今すぐ結婚だ」
カルロスの父親はクララの手を握り大笑いしている。クララも思わす笑ってしまう。
(なんて楽しい方なの!!)
「親父、俺婚約者いるじゃん、忘れた?」
カルロスが真顔でそう言うと、カルロスの父親は苦笑いし言った。
「おお、そうだったな、タピア公爵様、息子のことは諦めてくださいませ」
「プッ、そうですか?!残念ですが仕方ありませんね!」
クララが笑いを堪えながら真顔で答えると、
「うーん。私が若かったらなぁ」
と言ってカルロスの父親はクララにバチンとウィンクした。とても素敵な大人の男性だ。
「親父、もう良いだろ?クララ行こう」
カルロスは首を左右に振り呆れ顔を父親に向け、ゆっくりと歩き出した。
「楽しい時間をありがとうございます!では失礼します」
クララは礼を言いカルロスを追いかけた。
「クララ、親父に捕まっていたのかぁ!あの人の言う事聞かなくて良いから」
カルロスは笑いながらクララに言った。
「カルロスのお父様って明るくて素敵ね!久しぶりに大笑いしたわ」
クララも笑いながらカルロスに言う。
「うち、全員あんな感じで、みんな自由なんだ」
カルロスは両手を上に上げ背伸びしながら言った。
(カルロスって背も高いし手足も長い、モテるんじゃないの?)
クララはカルロスを見つめながら言った。
「改めて見ると、カルロスってモテそうね」
「え?今更気が付いた?クララは本当にマイペースだなぁ。ところで、クララって好きな人いるの?」カルロスはあっけらかんとして聞いてきた。その言葉に一瞬胸が詰まる。
「うーん、難しい質問ね。まだまだやらなきゃいけない事多すぎてね。そこまでいけないの」
クララはカルロスから視線を逸らし言った。
「クララ、俺たちより二つ上だろう?まずくない?」
カルロスは意地悪そうな表情を浮かべ笑いながら言った。
「失礼な!全然まずくありません!色々終わったらちゃんと考えるもの!」
クララはカルロスのデリカシーの無い言葉に半呆れながらも反発するように返事をする。
「ハイハイ、その頃にはもうおばあちゃんだよ」
カルロスはクララを覗き込み言った。その言葉にクララは唖然とした。
「まあ!本当にカルロスってデリカシーが無いわ!エリアス様を見習って!」
クララはカルロスの背中を両手で押して抗議した。
「あははは、エリアス様は特別だから比べるなって。あ、そういえばエリアス様今頃聖女様と会っているんだよなぁ。どうするんだろ結婚相手」
カルロスはクララの部屋の前まで戻り、何気なく言った。
「わかんない、でも、幸せになって欲しいし、それを心から祈ってる」
クララは胸の痛みを堪えカルロスに言った。
(私は自分のやるべきことだけを見つめよう。そうしなければ何もできなくなっちゃう)
「そうだな、俺も祈ってる。ところでクララここにきた理由あるんだよな?」
カルロスが聞いた。
「うん、カルロス、私ね、空の精霊を探しているんだ。心当たりないかな?風の公爵様」
クララは気分を変えるように笑顔を浮かべカルロスに聞いた。
「空?空,空、あ、モリアーナ公爵家の裏に空に落ちる湖って場所がある。明日行ってみるか?」
カルロスは公爵邸の裏側を指差しながら言った。その言葉を聞きクララは飛び上がった。直感でわかる。そこに精霊がいる。
「行きたい!明日案内して欲しい、いい?」
クララはカルロスにお願いした。
「ああ、いいよ、明日行こう」
「ありがとう!」
クララはまた一つ前に進めたことを心から喜んだ。ただ、エリアスの相手、聖女と聞いて心にもやがかかる。聖女は神の使い。そんな人にエリアスを渡したくない。嫉妬のような気持ちが湧き上がる。邪な思いを抱いているかのような罪悪感さえ感じている。けれど、それは本当に邪な気持ちなの?
クララは立ち止まるように考え直した。
(違う、私の思いは邪じゃない。見返りなど求めていない。エリアス様を救いたい。ただそれだけ。だから今は精霊を手に入れることだけを考えなきゃ)
クララは燻る気持ちを押し出すように息を吐き、カルロスと別れ部屋に戻った。