お母様のようなグロリアの母
グロリアは急な来訪にもかかわらず素敵なディナーを用意してくれていた。庭のテラスにランプを灯しテラスの向こう側は池があった。暗い水面でも色がわかるほど鮮やかな鯉が泳いでいる。そしてランプの灯りが水面にも映り向こう側にもう一つの世界があるように見えた。
「クララこちらがお父様、そしてお母様、三つ上のアマラントお兄様、とまだ五歳の妹のパシリアよ。そしてこちらタピア公爵家当主のクララ!」
「初めまして、クララ・タピアと申します。今日は突然の来訪にもかかわらず、暖かく迎えてくださり本当にありがとうございます。」
クララは暖かく迎えてくれたグロリアの家族に向かいドレスを持ち上げ挨拶をした。グロリアは銀色の髪に薄いブルーの瞳、兄のアマラント、妹のパシリアも同じ色だ。そして母親も同じ、父親は銀色の髪に濃いブルーの瞳だ。美形一家で皆一重の瞳。一見クールな印象があるが、実際はグロリアは心根の熱い女性だ。
「まぁ!!タピア公爵様はこんなにこんなに!!お人形さんのように可愛らしいお嬢さんなのね!!ああ、可愛い、タピア公爵様ベニータと呼んでください。抱き締めてもよろしいでしょうか?」
グロリアの母ベニータはクララが返事をする前のクララを抱きしめた。その抱擁は優しく温かい。
(母親が生きていたらこんな風に抱きしめてくれるのかな?)
クララもベニータを抱きしめた。
「もー!お母様、クララは私の友達だから勝手に抱きしめないで、」
グロリアはベニータからクララを奪いクララを抱きしめた。
「うふふ、グロリア。私は生まれた時に母が亡くなってこうして抱きしめてもらったことがなかったの、だから今ベニータ様に抱きしめられた時まるでお母様に抱きしめてもらったように感じたのよ。嬉しかったわ。」
クララはそう言ってグロリアを抱きしめながらベニータを見て、
「ありがとうございます」
と微笑んだ。
「タピア公爵様!!私をお母様だと思って下さって良いのですよ!」
ベニータはそう言ってグロリアとクララを一緒に抱きしめた。
「どうぞクララとお呼びくださいませ」
ベニータの腕の中でクララが言うと、
「クララ、もう私の娘ですよ」
ベニータはクララの頬に優しくキスをした。
(こんなに暖かい家族がいたら私の人生も違ったかもしれない)
クララはそんなことを考えながらも、過去は変えられない。これで良かったんだと思い直した。
「そろそろ食事にしようか?あ、ディエゴとお呼びください。お腹が空いているでしょう?」
父親のディエゴがクララに微笑みかけ椅子を引き、
「こちらにどうぞ」
とエスコートしてくれた。
「ディエゴ様、もうしわけございません、直々に椅子を引いて下さって」
クララはグロリアとベニータから離れ、ディエゴの所に行き、ドレスを持ち上げ挨拶をした。
「私もクララと呼んでもよろしいでしょうか?」
グロリアの兄アマラントが声をかけてきた。
「アマラント様、喜んで」クララは笑顔で答え、アマラントの後ろに隠れて恥ずかしそうにクララを見つめるパシリアにも、
「クララと呼んでね」
と言って笑いかけた。パシリアは首を左右に振り、
「お姫様」
とクララに言った。
「お姫様?」
クララはパシリアに聞き返すと
「クララお姉様はお姫様みたいだからお姫様と呼びたいです」
と言った。
「まあ、パシリア、嬉しいわ、ありがとう小さなレディ」
クララはパシリアを抱きしめて頬にキスをした。
グロリアの家族はとても暖かくクララを迎えてくれた。
クララは生まれて初めて家族の暖かさを知った。ワイワイと話しながら取る食事は本当に美味しく、かけがえのない時間を共有できた。
「クララ、明日買い物に行きましょう、クララに可愛いドレスを買ってあげたいわ!こんなに可愛いんですものグロリアやパシリアが嫌がるたくさんリボンのついたドレスとか絶対に似合うわ!」
ベニータはクララを見ながら言った。
「お母様、クララはリボンが大好きなの、私やパシリアと正反対だからきっとお母様の夢が果たせるわよ!」
グロリアはパシリアと顔を見合わせ笑いながら言った。
「ベニータ様、自分で買いますから気になさらずに」
クララはベニータに言った。
「クララ、私の夢はね、娘と可愛いドレスを買いにゆくことだったの。だけどこの二人はちっとも可愛いものを選ばないし、ようやく夢が叶うの、クララ夢を叶えさせて」
翌日クララはグロリア、ベニータ、パシリアと街に買い物に出かけた。