雨泣
その日は朝から雨だった。一日休みだからといって、重い雨雲ばかりでは気分も萎えてしまうというものだ。雨垂れの規則的な響きが催眠へと誘なっているように聞こえてくる。がらがらと窓を開け、両手を外へと伸ばす。
ぽたり ぽたり ぽたり
次々と両手へ落ちてくる雫は綺麗に磨いた爪の先まで浸透し、瑞々しい艶を与える。手に落ちてくる雨は少し冷たい。何かを掲げるような形で肘を曲げると、前腕をつたい折れ目に溜まる。やがて限界量を超え、つう、っと地面へ向かって落下していった。始めの内は降り注ぐ雨の中から見分け可能であったが、直ぐにそぼ降る雫と一体化してしまった。
盗んだ宝石は宝石箱の中へ。外見はどれも同じ宝石というカテゴリーで括ってしまえるが、実情は異なる。同様に、人間の中に人間を隠してしまうことは容易い。私達も人間という枠から逸脱している訳ではない。脳内は私達にしかコンタクトできない部分が存在し、私達を欺き外部から脳内ネットワークにアクセスすることは現在の技術では困難であろう。優子が得物となるならあたしが盾となる。レイラが武器となるなら私が防具となる。此処からは二人以外立ち入り禁止よ。雨に打たれた手の平が互いの頬を濡らしてゆく。泪の跡を思わせる儚さに、思わず抱き締め合った。