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お見舞い

作者: 雉白書屋

「ん、はい、どうぞー」


 とある病院の一室。ベッドにいた彼はノックの音に返事をした。


「宮野。入るぞー」


「お、おお。西田! 久しぶりだなぁ」


「だなー、はははは!」


 笑い合う二人。西田は高校時代の友人。社会人になってからは疎遠気味だったが、こうして見舞いに来てくれるとは良い奴だな、と宮野は思った。しかし……


「いやー、しかしねぇ、驚いたよ。お前が入院したって聞いたときは」


「ああ、車に撥ねられてな」


「災難だったなぁ。どうせ相手が悪いんだろう? お前は信号無視とかしないだろうしねぇ」


「ああ、信号とかない普通の生活道路だったよ。でも端を歩いてたんだぜ」


「それで、犯人は?」


「それがダメダメ。いやー、会社の呑みで夜遅くなって目撃者もいないし、うちがあるあの辺、監視カメラとかもないからさぁ」


「あー、でもお前は見たんじゃないのか?」


「それが後ろから急にだったしなぁ……。派手に撥ねられてさ、気絶しちゃったんだよね。もー、全然覚えてねえんだ」


「まー、元々酒飲んでたのもあるだろうしねぇ、仕方ないな」


「あー、うん。それで西田は最近どうしてるんだ?」


「俺? 俺はまぁ相変わらずだよ。地元でバイト生活さ。まあ、大学落ちちまったからなぁ、しょうがないしね」


「そっかー……」


「お前はすごいよなぁ。広告業界だろ? 羨ましいよ。給料もいいだろうしね」


「ん、まあその分、新人はこき使われるけどな。この入院だって肩身が狭いよ。まあ、上司らの呑みに付き合わされたせいで遅くなったっていうのもあるから、会社側からは優しい言葉をかけて貰ってはいるけどな」


「そりゃなによりだなぁ。でも、お前は昔から頑張ってたしねぇ。人にも好かれてたしねぇ、優しくされるのも当然かもな」


「あー、うん……」


「うん? どうかしたか?」


「いや、まあ、うん」


「なんだよ、あ、事件のことで何か思い出したか?」


「いや、そうじゃないけど」


「えー、本当か? 言ってくれよ。ほら」


「……いや、お前。普通お見舞いに髑髏のTシャツ着てくる!?」


「え? これ?」


「それだよそれ、さっきからずっと目が合ってるんだよ!」


「そりゃお前が見てるからだろ」


「目を引くからな! なんだよそのキラキラしたラインストーンは!」


「ははは、まあまあ、よくあるデザインだしね、そう声を上げなくてもいいじゃないか」


「はぁ、とにかくそのシャツのボタン閉じて、そいつを隠してくれよ」


「まあ、いいけど。あ、そうそう、これ見舞いの品ね」


「いや、いやいやいやいや」


「ん? なんだよ? まだ見てないだろ?」


「そうじゃなくて、お前、背中」


「背中?」


「今、それ取るのに屈んだときに背中が見えたんだけど。もう一度よく見せてくれよ」


「ん? いいけど……」


「いや死神! そのシャツ、死神がプリントされてんじゃねーか!」


「ああ、カッコいいだろー、お前も髑髏とかこういうの好きだったろ?」


「高校時代はな! いや、高校生でも、見舞いにそれは着てほしくねーよ! 連れてくんなよ死神を!」


「まー俺、あんまり服持ってないしねぇ。買う余裕なくてさ」


「ああ……そりゃ、まあ、悪かったよ」


「いいんだ、お前が怒るのも無理ないしね」


「あーうん……で、それは?」


「ああ、見舞いと言えば花だよな」


「そうか、わざわざ悪いな」


「いいんだよ。友達だしね」


「おー……いや、菊の花!」


「白くてでっかくて綺麗だよなぁ。気にすんなよ。結構安かったしね」


「いや、別のこと気にするわ! ダメだろ! 見舞いに仏花は!」


「えー? でも花はただ咲いているだけだろ? 仏花だの花言葉だのそんな役割だとかは人間が勝手に決めつけたエゴだよエゴ。俺は母の日でなくともカーネーションを愛でたり、クリスマス関係なくポインセチアを眺めていたいけどなぁ」


「まあ、そうかもしれないけどよ……」


「あと、これも。シクラメンね」


「鉢植え! 寝付く! 縁起が悪すぎるだろお前!」


「えー、いいと思ったんだけどなぁ、赤くて綺麗だしね」


「あと、それ!」


「それ? どれ?」


「さっきからお前、ちょくちょく語尾に『しね』って言ってるだろ、それ地味に気になるんだよ!」


「え、気がつかなかったなぁ。ごめんな。服のこととか花のこととか、言葉遣いにも気が回らなくてさ……。疲れてるんだろうなぁ。親の借金があって、バイト掛け持ちで、就活もうまく行かなくてさ」


「え……そうか、それは知らなかったよ……お前も大変なんだな」


「お前『も』?」


「ん?」


「いやー、お前のSNS見る限り、楽しそうにしてるなぁと思ってさぁ。彼女と、どこどこ行きましたこれ買いました、あれ食いましたあの芸能人に会いましたとかさぁ写真を載せてるしね」


「いや、まあ、入院生活のこと言ったんだけど……」


「ああ、そうなの? でもお前は購入した新車がなかなか来ないだの、やっと来ただの新しくまた買っただの、悩んでるんだか自慢してんだかわからない投稿をしてるしねぇ! いいよなぁ! バイトをクビになって車をレンタルする金を用意するのも一苦労な俺と違って幸せそうだしねぇ! 疎遠にもなるのも仕方ないよな、立場が違いすぎるしねぇ! しねぇ!」


「いやもう、死ねってはっきり言っちゃってるじゃん……え、お前、俺に死んでほしいの? ん? あれ、車を用意って? お前まさか」


「……ま、元気出して。ほら、食い物の差し入れもあるぞ」


「なに? なんか、生臭い……」


「お寿司ね。それじゃ、これ食って元気出せよ。じゃ、俺はこれで……」


「いや、腐ってるし! 逃がさねーしねぇぇ!」

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