1話 異世界転生物のお約束。
私の日常が一変したのは父が亡くなってしばらく経った頃。
村は大雪に見舞われた。
北から吹く風は南に聳えるレイゲンタットの峰々に遮られ、この地方は雪が多い。その日の大雪も冬の風物詩の様なものだけど寒さのせいか、しばらく微熱が続き体調が優れず狩りに行けなかった私には最悪だった。
雪が止んだ頃には体は持ち直したが、休んだ分、当然収入は無い。冬は獲物も少なくなるけど、なにもしないでいられる程には生活に余裕がある訳じゃない。
私は病み上がりの体を引き摺って森に入った。
「うー、流石にこれはきついわ」
足を止めて空を見上げる。本日は晴天なり。
風も穏やかで冬の柔らかな日射しが心地好い。
うん、天気はね。積もった雪が一気に消える訳は無く、膝くらいまで積もった雪をかき分け進むので何時もの何倍も疲れた。
森まで来ると下に積もった雪は少なくなったけど、決して楽ではなく、岩や張り出した木の根などが埋まって見えなくて足を取られる事も多い。
「角兎の一羽くらいは狩れないと厳しいんだけどなぁ」
父が亡くなってからは一人になった。
勿論、村の人は温かで皆心配してくれるけど、出来る限りは甘えたくなかった。甘えたらダメになりそうだったから。
狩人としてはまだ半人前かもしれない。でも自分一人ならなんとか食べていかれる程度ならなんとか出来るだろうと。でも現実には父が残してくれたお金などは少しずつ減っている。獲物の少ない冬だから仕方ないと言うのはあるけど、先は不安だ。
「でも今日出てきたのは失敗だったかも」
足場は悪く、獲物を見付けても逃げられる可能性が高い。焦燥感から狩りに出たけど、体調も万全ではないし日を改めた方が良かったかも。
「とりあえず薬樹を探そうかな……」
薬樹の葉は煎じて飲めば解熱剤になる。診てもらうとお金が掛かるから、常備薬としてどこの家でも置いてある。冬でも葉の落ちない針葉樹なので採取は出来る筈だ。
この辺りにも薬樹はあった筈。
森の中は静かで時々ドサッと融け出した雪が落ちる音。食べ物を探しに歩いている動物の足跡は残っているから獲物はいる。
上手く見付けても弓は苦手なので遠くから狙えないし、足場が悪いのは辛いなぁ。
やっぱり飛道具とか罠の仕掛けとかも覚えないといけないかなぁ。気配を抑えるのもまだまだだし、狩人としてやっていけるのだろうか。
「薬樹の葉を採って、獲物を狩って帰る。夜はお鍋とか美味しいご飯!」
いけないいけない、本調子じゃないからか余計な事を考えてしまう。出来なくて当たり前、誰も最初から上手くなんて出来はしないよ。
うん、幸い少しは蓄えがあるんだから、これから出来るように頑張ればいい。
雪をかき分け進むと目的の薬樹を見付けた。
でも。
「あー、下の方はあんまり残ってないなぁ」
薬樹は他の木々より高く成長する。その分下の枝は少なくなるんだけど、最近誰かが採取したのか葉はあまり残っていなかった。つまり登らないと十分な量は採取出来ない。
むー、仕方ない登るか。
真っ直ぐに育つ木じゃないから登るのは難しくはないんだけど、今日は雪があるから滑りやすい。気を付けなくっちゃ。
慎重に木の半ばまで登る。
「上の方は状態が良い葉が多いね。少し多目に採っていこうかな」
寒い季節は風邪もひきやすいし───と手を伸ばした時、ボキリと足下で嫌な音。
バランスを崩した私は空中に投げ出された。
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「あれ、ここ、どこ?」
気が付けば知らない場所に立ってた。光に包まれた白い空間。他には何もなく、見渡す限り続く白い地平線。
見知らぬ景色───いや、知ってる気がする。
「おお、勇者よ死んでしまうとは情けない」
思い出そうと思案してると、女性の声がした。
振り向くと鮮やかな牡丹が印象的な十二単を纏った女性が立っていた。衣装の割に髪は結ってはいない上に銀色で、ちぐはぐな感じ。
そしてその台詞。なんか有名なゲームの王様の台詞だった気がする。しかもドヤ顔だ。
「………えーと?」
「…………オカシイですね……大体の異世界人なら『なんでやねん⁉』と誉めてくれると先輩に聞いていたのですが………」
いや、どこからつっこめば良いのか。
「それ騙されてます。大体、なんでやねんは誉め言葉じゃないと思う」
「ええっ?そうなんですか?」
困った顔で見られても。なんか綺麗だけど残念な香りがする人だ。
「ええと、それで、ここは何処なんでしょうか?」
「そうでした、ここは〈戦巫女の園〉。あなたはその天寿を終えここに招かれました」
あー、ラノベの異世界転生物によくある感じですか。死んだ後に神様とかにチートスキルを貰ったりする不思議空間って奴。
「………ってボク死んじゃったの!??」
「はい、それは見事に。大変よくできましたと、はなまるを差し上げたいくらいです」
ふんわり微笑む残念美人さん。いやボクの死に様に喜ばれては困るんだけど。
「私はミシュリー、こちらの世界の神様みたいなものでしょうか。こちらにお招きする方の案内をさせてもらってます」
「はあ、それはご丁寧に」
ペコリと頭を下げる残念………いや、ミシュリー様。
最初はあれだったけどお仕事はちゃんとするようで色々説明してくれる。
これから行く世界は所謂中世ファンタジー系の魔法が存在し、魔物がいて、有りがちな《スキル》があって魔法や特殊な技能が使えたりする世界。
うん、定番だね。
残念ながらチートみたい世界に大きな影響がありそうなスキルは貰えないが、転生特典として生前を加味したスキルと転生者には《空間収納》というアイテムボックス的なスキルが貰えるそうだ。
「以前は《流星雨》とか《竜王召喚》とか《核融合》とかチートスキルを付けてあげれたんですけど、ちょっと世界が崩壊しそうになったのでダメになっちゃったんです」
「そんな環境破壊にしかならなさそうな物をホイホイあげてたんですか………」
申し訳無さそうに言うけど、そんな物騒なスキル貰っても困りそうなんだけど。
───って言うか、前の転生者の人何やってるんですかね………。
「転生者って結構居るんですか?」
「前世の記憶を引き継いでの転生という意味でしたら、それほど多くはないですよ。〈生きる者〉の〈魂〉は巡り複雑に絡み合い〈運命〉は紡がれます。記憶を持たずとも〈力〉は継承され、より高みを目指します。全ては廻り廻る者なのです」
輪廻転生って奴かな?そう言う意味では皆転生者って訳だ。
「記憶を持つあなたにはやってもらいたい事がありますが、きっとそれはあなた自身が見出だすでしょう」
「定番の魔王を倒せとか世界の危機を救えって訳じゃないんですね」
「ええ、そんな理不尽な王様とか女神みたいな事は言いません。あなたは自由に生きて、あなたがやりたい事をすれば良いと思いますよ?」
先程その王様の台詞を聞いた気がするんですが。
「コホン。さあ、そろそろ出発の時間です。あちらの世界は危険に満ちていますが、良き出会いもあるでしょう。あなたが最期に見せた勇気があれば、きっと大丈夫」
ミシュリー様がさっと手を振ると、ボクの体は光に包まれる。
「そう言えば、ボクなんで死んだんですかね?どうも記憶に無いみたいなんですけど………」
確か……冬休みに入ってゲーム三昧だーっとエルグラにログインして、ギルメンは昼間だったせいで誰も居なかったからソロで高難度クエストに挑戦していた気がするんだけど………。
「単身で〈北邦守護神ノイエンティーゼ〉に挑んであと少しまで追い詰めた力、期待してますよ」
え、それはゲームのキャラであって、現実の方は生きてるんじゃ…………?
ニッコリ笑うミシュリー様に聞く前にボクの意識は途切れてしまった。
お読み下さりありがとうございます。