アンのクオへの態度
私達は国境の町を出て半日で隣町である魅高の町に辿り着く。
『魔人国の町がこんなに近いなんて……』
「やはり近いですね。国境の町と白獅子の里と同じくらいの距離でしょうか」
バァーテスが馬車を操縦しながら私が思っていたのと同じ様な事を言う。
「それはそうじゃない。魅高の町は昔の獣人との戦いの最前線の砦跡に造られた町なんだから」
クオが解りきった事の様に呆れた声で話す。
「知らないわよ! 魔人国の事なんか」
いつもはあまり争い事を好まない印象のアンがクオに言い返した。
「落ち着いて。どうしたのアン?」
「落ち着いています。私はただ……」
アンはクオを一睨みすると御者台に向かいバァーテスの横に座る。
「…………」
その後、魅高の町に着くまで誰も口を開かなかった。
「着きましたよ」
バァーテスが馬車を停める。
「……宿取って来る」
クオは口数少なく馬車を下りて町の中心部へと走って行った。
「何か食べましょうか」
「はい」
私はアンと馬車を下りると近くの屋台に向かって歩く。
「バァーテス、馬車をお願い」
バァーテスは無言で頷く。
「どうかしたの?」
私は隣を歩くアンに話し掛けた。
「いえ……」
「嘘……話してよ。何でも聞くよ」
「……アイが」
「アイ?」
「アイから聞いた感じでは、今の状況だとカウヨと会えないかもしれないと……」
「そうなの?」
「ええ。魔族の中でもカウヨの所属している組織は魔族軍の関係者が多いらしくて、元魔族軍のクオがいると……なので今の内からクオと距離を取った方が良いのかなと思って」
「それでクオにあんな言い方をしたって事?」
「はい。なるべく私とクオはカウヨに会うまで仲良くならない方が良いかと……もし、カウヨとの接触の時に怪しまれたら、喧嘩する様な形で私だけタリア達から少しの間離れる演技をして……とか考えてて」
アンはクオが馬車に乗って来てからずっとその事を考えていたらしい。
「そうだったの」
「なのでもう少し……カウヨとの話が纏まるまで、タリアも私とクオの間で困っている演技をしていて欲しいんです」
「分かったわ。任せて。どっちの味方もしない様な曖昧な立ち位置の演技ね」
「はい。後、バァーテスにはこの事を言わない様にしたいんです」
「……そうね。バァーテスは演技とか出来なさそうだもんね」
「……ぷっ…ふふふ。ですよね」
アンはそれまでの難しい顔から我慢出来なかったのか吹き出す様に笑う。
「じゃあバァーテスには内緒で……」
これからの旅で『アンとクオが微妙な空気になってバァーテスがオロオロするのかも』と思うと私もニヤけてしまった。




