白獅子の里の変化
私達の馬車は一度も魔物との戦闘をしないまま獅子の里まで辿り着いた。
「本当に白山領の街道のどこも魔物は出ませんでしたね」
「そうですね。これもコットン商会と彼女の功績ですか……」
私はここ数年で白山領に名を轟かせつつある白獅子の顔を思い浮かべる。
『ユキさん……』
彼女は白獅子族を率いる族長。女性の族長は獣人族の中では異例だが、その実力を遺憾なく見せつけ周りの人達や他の里の族長達を黙らせていた。
そして『彼女は白山領の次期領主になるのでは?』と噂されている。彼女が族長になれば女性の領主は絵本の国で初めて。
『お母様、ダインを領主にするのにはライバルが強すぎますよ』
私達は久しぶりに大きな町に来ていた。
白獅子の里は領都に並ぶ大きな町の1つ。
「白獅子の里って……こんなに人が少なかったでしたか?」
里に入って直ぐバァーテスが困惑の声を上げる。
「どうなのでしょう……私もここに来るのは子供の頃以来なので……」
「私も小さな頃に一度訪れた憶えがあったのですが……」
アンの何か違和感を感じている様だった。
「あの……少し聞きたいのだが……」
「何でしょう?」
バァーテスが道行く老獅子族に話し掛ける。
「ここは白獅子の里で間違い無いでしょうか?」
「そうだよ」
「ここは……もっと賑わっていた気がするのですが」
「ああ、そうだね。数年前まではそうだったね。でも今は隣町に住人が移ってしまってね……この町は老人ばかりになってしまったよ」
「隣町ですか?」
「隣町の国境の町……今は中心町だったかな」
「中心町ですか?」
「ユキ様が族長になってからかな、そう呼ばれているよ。白山領の各地から人や物が集まって……いや、白山領だけではないな、絵本の国の他領……それと魔人国からもだね」
「そうですか。ありがとうございました」
バァーテスは老人に丁寧に頭を下げると私達の乗る荷台を振り返った。
「タリアは知っていましたか?」
「いいえ……噂……小耳に挟む程度には国境の町が発展しているとは聞いていましたが……」
「ですがそれはおかしいですよ」
「何がおかしいのですか?」
「私は秘書見習いで領内の徴税の記録を整理していた事があるのですが、獅子の里からの税収はそれほど増えていた様子は無かったかと……」
「私も前に同じ仕事をしました。確かにアンの言う通りです! 白獅子族は……ユキさんが白山領の税金を誤魔化している可能性がありますね!」
「調べますか? 私達の仕事は魔人国への使節団ですが」
「調べましょう。これは白山領にとって大変な事態の可能性があります!」
こうして私達は白獅子の里での宿泊を取り止め、直ぐに国境の町へと向かうのだった。




