魔人国に向けて出発
私の旅は始まった。
私はタリア。白虎タリア。白山領領主の白虎ターガツの娘。
そして魔人国の風大領への使節団を率いる特使。
初めての重大な仕事を任された事になぜか笑顔がこぼれニヤニヤしてしまう。
「何か楽しそうですね」
隣に座るアンさんにそう言われてしまう。
「アンさんはワクワクしませんか? 魔人国に行くのですよ」
「私はあまり……それとタリア様、私をさん付けで呼ばないでくれますか。呼び捨てでお願いします。気を遣われると心苦しいので、この先長旅になりますから」
「それなら私の事もタリアと呼び捨てで」
「それは……」
「長旅になるのですからね」
「はい、分かりました……タリア」
「はい、アン。バァーテスも呼び捨てでね」
「……はい、タリア」
『楽しくなってきた。呼び捨てで呼び合える友達が欲しかったんだよね。アンさん……アンとはそんな友達になれるかしら』
「タリアは何て言われています?」
「何てとは?」
「ええと……私は使節団として魔人国の風大領に行くとだけしか聞いていません。私の父のゴウケンは私とアイにこの旅でタリアの護衛をさせて、その実績で私達を護衛騎士にするつもりなのです」
「そうでしたか。私の父はどう考えているか分かりませんが、母は私に秘書としての実績を作って弟のダインを補佐させたいみたいで、ゆくゆくはダインを領主にしたい様でした。後、これは私の推測なのですが、アンのお父様もアンとアイを騎士にしたいと思っているのではないかと……そうでないと使節団の派遣がこんなにすんなり決まるとは思えませんから」
「私もそう思います」
私とアンはお互いの考えている事が同じだと確信する。
「ねえバァーテス。バァーテスは何て言われて私達の使節団に加わったの?」
「私は昨日の朝一番で長旅に備えて準備をするように言われていました」
「朝一番? それって私がお父様に会いに行く前?」
「そうです。朝出勤して直ぐでした。その後でお嬢様……タリアを迎えに行ったので」
『バァーテスは私専属の護衛。そのバァーテスは私がお父様に魔人国に行きたいと伝える前に旅の準備の指示が出ていたとなると……』
私とアンはお互いの顔を見て頷き合う。
「仕組まれていたみたい」
「仕組まれていた様ですね」
こうして魔人国へ向けて出発となった私達の旅。
無事に使節団としての役目は果たせるのか。
長い旅は始まったばかりである。




