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異世界に生まれ変わるなら猫  作者: りづ
1章 私は何者?
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2年前の失態


「待て」

私達が保育園の隣の領主官邸に入ろうと門の前に行くと山羊獣人の領兵が声を掛けてくる。


「リャルル様は休みだったが、タリア様の護衛騎士の選定が急ぎだったのでにお呼びしたの」

バルナが説明するが門番の兵は顔をしかめたまま。

「そちらは?」

「娘のリンよ」

リャルルの言葉にも首を横に振る。

「……領主官邸に入る許可が貴女の娘には無い」

「大丈夫だよ、ヤァルゴ。俺とリャルルの娘だ。危険は無い」

どうやらダンは門番の事を知っていて間に入る。

「ダメなものはダメだ。ダン、お前みたいに……いい加減な仕事しかしないヤツと一緒にしないでくれ。俺は通さないと言っている訳では無い。許可を貰ってからにしてくれと言っている」

門番のヤァルゴはダンに冷たい目を向けた。

「わかった。私がリンちゃんの入館許可を貰ってくる」

バルナが駆け足で領主官邸入っていった。


「ヤァルゴ、また明日から同僚になるんだ、そんなツンケンした態度をするなよ」

ダンは笑いながらヤァルゴの肩に手を置こうとしたがヤァルゴはその手を振り払う。

「ヘラヘラして何のつもりだ! 同僚? ふざけた事を言うな! 誰のせいで同僚になったと思っているんだ!」

ヤァルゴはダンを睨みつける。

「そんな2年も前の事をまだ怒ってるのか?」

「はぁ? 2年の事? ふざけるな! 俺はお前の上司だったんだぞ! お前があんな事をしなければ!」

「あんな事って?」

「お前……聞いてないのか?」

「何を?」

ヤァルゴは睨んだ目をリャルルに向ける。

「お前、ダンに話してないのか! 俺は降格処分になったんだぞ!」

「…………解決したから問題無いと思ってて……ごめん、貴方が降格したなんて知らなかった」

リャルルは申し訳なさそうに頭を下げる。

「何の事? ……アッ! あれか! ヤァルゴの剣を借りた! あの日、俺…自分の剣をどこかに忘れて……ヤァルゴの剣を借りたんだった!」

「何? あれもお前だったのか! いつも置いてある場所に俺の剣が無くて……違うそれじゃない! ……まあ、それもムカつくが……」

ヤァルゴの顔が引きつる。

「ダン、あのね……ダンが私の代わりに産休に入る日、最後にここを通した人の事、覚えてる?」

「最後に通した人? いや、覚えてない」

「ドノバンに頼まれて私がリンを乳母車に乗せて来た後」

「リャルルが来た後…………」

「私、覚えてるよ。確か鳥の顔の朱森領の行商人が羽根飾りを売りに来たよ。私も鈴の付いた黒い羽根の飾りを乳母車に着けて貰った」

私は今も部屋に飾ってある黒い羽根の飾りを貰った事を思い出した。

「そうだそうだ! あの親切な人」

「親切では無い! あの男は朱森領で盗みを働いて逃亡してきた泥棒だったんだぞ!」

「「泥棒!」」

ダンと私は同時に叫んでしまう。

「そうだ。タリア様が買った腕飾りも朱森領主様から盗んだ物で朱森領からの使節団が来た時、大問題になったんだぞ! それで行商人を官邸に入れた責任を取って門番の責任者だった俺が平の領兵に格下げされたんだ!」

「それは悪い事をした。あの時はリンが羽根飾りをくれたし……良い行商人に見えたんだ……」

「それは泥棒に買収されただけだろ!」

「待って! それじゃ私達の家に泥棒から貰った盗品があるの?」

「うん……私の部屋にある鈴の付いた黒い羽根飾り付き」

私はリャルルに正直に答える。

「あぁあれ、リンが気に入ってよくチリンチリンと鳴らしてた」

「うん……盗品なら返さないとダメだよね」

「そうだね……ダン! 急いで家に帰ってリンの部屋から持ってきて!」

「はい!」

リャルルに言われダンは貰った羽根飾りを取りに走って行ってしまった。


「ヤァルゴ、私からターガツに話して降格処分を取り消して貰うわ。それと減給された給料とその間に貰う筈だった給料も支払うように言うわ。ごめんなさい」

「ああ、そうして貰えると助かる。俺も最近、子供が産まれて平の領兵の給料では厳しかったんだ。領兵を辞めて冒険者に戻ろうか考えていたところだった。給料が上がるなら子供と一緒にいられる領兵の方が良いからな」

「そうだね。それで私もダンを領兵にさせたんだから」


「お待たせ。リンちゃんの入館許可証もらってきたよ。 うん? 何かあった? ダンもいなくなってるし」

バルナが私の入館許可証をもらって戻って来た。

「ちょっとね」

「まあいいや、ライア様とタリア様も待ってるから早く行きましょう」

「タリア様も!」

「うん。タリア様が自分の護衛騎士になる人だから誰になるか早く知りたいって言って、ライア様も娘の護衛を気にしていて……」

「それじゃ急がないと。リン行くわよ!」

リャルルは私の手を握るとバルナを置き去りにして全力で走り出す。私にもリャルルの魔法が掛けられていて、いつもより速く走っていた。


「リャルル様! 走るの速いよ! 待って~」

バルナの声が遠くに聞こえた。


「お母さん、どこに行くかわかってるの?」

官邸に駆け込んで真っ直ぐ走っていたリャルルの足が止まる。

「バルナ!」

振り向くとバルナが息を切らせて追い掛けてきている。

「リャルル様! そっちじゃありません!」


父親のダンがポンコツなのは何となく前から気付いていたが、母親のリャルルもなかなかのおっちょこちょいなんだと思ったのだった。



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