不痺雷ラドウ
『私は魔力が欲しかった』
母が人族のハーフエルフとして生まれ、しかも周りに父以外のエルフがいない環境で育った。
なので小さい頃は自分の魔力が多いのか少ないのか分からず暮らしていた。
しかし、年月が流れ段々大人に近付くにつれ自分が周りの人達と違うのだと気付く。
私の見た目は殆ど人族と変わらず耳が少し横に長く尖っているだけ。髪の色も母の物を受け継いだ様で茶色に近い色なのもあり、周りの友達には少し魔力のある人族か少し魔力の低い魔族のどちらかか、その両方のハーフだと思われていた。
そんな環境が変わるのは私の周りの同年代の人達が大人として働き始め出した頃だった。
『少し成長の遅い子』
私は周りからそう見られていた。それは父が殆ど周りの人達と交流が無かっく、父親がエルフだと知っている者が少なかったから。
父は魔法の研究をする事以外に興味が無く、人族が多く住んでいる私達の近所の人達とは疎遠たった。身の回りの世話は元々父のお手伝いさんだった母が全てしていて、父が外に出るのは魔族と魔法について話す時だったり、魔族から魔法を教えて貰ったり、逆に魔族にエルフ特有の魔法を教えたりと交友関係が偏っている。
勿論、私とも会話はあまりない。
『私の魔力が低いから……』
ずっと私は悩んでいたものの、それを父にも母にも相談できなかった。
『父は何で人族の母と子供を作ったのだろう。子供に魔力や魔法の才能を求めていないのか?』
大きくなるにつれて悩みは増えるばかりだった。
そこで私は自立しようと家を出る事にし、最初は商人になろうとある行商人の下に就職する。
この行商人は主に南の火大領や更に南の雷高領へ他領から首都エルに集まった品物を売りに行っていた。
この国の南の地方は暑い。特に雷高領は砂漠地帯を越えた先にある。なので私の使う水魔法がとても貴重だ。
なぜ水魔法を使う者が貴重かと言えば、それは魔族が行商人になる事が無いから。そもそも魔族は数が少ない。一応は各地の領主は魔族であったが、それは昔の獣人族との戦いの名残。魔貴族である領主を中心に魔族がその魔法で住民達を守っていたから。
今は獣人族との戦いも無くなり、魔族達は魔獣から領民を守るのが主な仕事。それも人族の武器、防具の進化によって魔族の魔法に頼らなくてもよくなっている。
だが魔族達は人族がする様な仕事をする事は少ない。それは人族を見下しているからなのか、それとも……私には分からない。
私は行商人について何度も首都と火大領、雷高領を往復していた。
時には魔貴族の屋敷に直接品物を届ける事も増え、魔族の知り合いも出来た。
そして友人と言える者も。
彼は魔族、それも魔貴族高雷家の次男だった。しかも私と同じ母親が人族。彼も魔力が低い事を悩んでいた。そして名前がラドン、私と一文字違い。それもあり仲良くなるのも早くお互いの悩みや不得意な魔法をどうしたら上手く使えるかも話したりもした。
そんな2人の関係が変わる出来事が起こる。
その日も私は行商人と共に高雷家へ荷物を届けに来ていた。
「いつもより高価な商品が多いですね」
私の言葉に雇い主の行商人が答える。
「息子に魔貴族の魔力を継承させるお祝いらしいぞ」
「魔力の継承……そう言えば近い内にラドンの兄が魔力を受け継ぐと言っていた」
父と友人から聞いた事があった。魔貴族は歴代の血族で蓄積させた魔力を親から譲り受けて更に魔貴族家の子孫の魔力を高めていくのだそうだ。
「ラドン!」
私が彼を見掛け呼び掛けたが様子が変だ。
「おう、ラドウ!」
「何かあったのか?」
「ああ、ついでだからと僕も兄さんと一緒に魔力を受け継ぐ儀式をしたんだ」
「それで?」
「見てくれよ!」
そう言うとラドンは右手に魔力を集め出した。その魔力は私の知っているラドンの魔力とは思えないほどのもので、彼は右手を上へ向けるとその魔力を雷に変え放つ。
一瞬、目の前が真っ白になり、次に空が紫色に染まり大きな音が響く。
「なんだ……その魔法……」
私は彼がその魔法を使ったとは信じられない……信じたくない気持ちになっていた。
「ハハハ。凄いな! 俺、凄いだろ! 初めてこんなに凄い雷魔法を使えたよ!」
ラドンは興奮状態でワタシに抱き付く。
「あ……良かったな……」
私の口からはそう言葉に出たが、内心は違っていた。
『何で……ラドンは俺と同じはずなのに……魔法が不得意な者同士だったのに……狡い! 私も魔力が欲しい!』
「俺兄さんを超えたかも。兄さんは元々優秀で魔力が高かったから魔力総量はあまり変わらなかったらしいんだ。でも俺は……それにこれはラドウのお陰でもあるんだけど、俺達の魔法の練習で少ない魔力での魔法の使い方が……ラドウ? どうした、怖い顔して……」
喜んでいるラドンの顔を私は睨んでいたらしい。
「…私も……魔力が増やせたら……」
私はそうブツブツ呟いていた。
「ラドウにも可能性はあるかもよ。例えばラドウの父さんの魔力を受け継ぐとか。後は……魔貴族と結婚するとか?」
「魔貴族と結婚?」
「魔貴族の魔力は子供か孫にしか受け継げないんだけど、でも反対も出来るらしい」
「反対?」
「そう。ラドウが魔貴族と結婚して子供が生まれて、その子が魔力を受け継いだ後にラドウがその子から魔力を受け継ぐ……」
「ラドンに姉か妹は……いないよな……そうだ! ラドンに娘が生まれたら私と結婚させてくれ!」
「…………それは無理」
私のその言葉でラドンとは疎遠になってしまった。
そして私は行商人との旅を辞め、自分の魔力を高める方法を探し始めて放浪の旅を始めた。
その旅の途中で実家に寄った時、私の体に起きた異変に父が気付く。
「その紫の魔力は何だ?」
「え?」
私の体に微量の紫色の魔力が溜まっている。その微量の魔力を私は右手に集めた。
バチバチ
『紫の雷魔法が遣える!』
高雷家に伝わる紫の雷魔法が使える様になっていた。
『ラドンのお陰……なのか?』
その日、私は父に不痺雷ラドウと名付けられる。




