ルシとミカの創った世界
ウスノとフリザの部屋の隅での話し合いはしばらく続いた。途中でラドウも呼ばれ「うんうん」と頷くのが見え、何か伝えられたようだ。
「これから話す事はここだけの話にしてもらえる?」
「構わないけど」
「うん」
「ウスノの話で気付いたかもしれないけど、エルフの里のある青霧領はここ風大領の西側でもあるけど絵本の国の一番東でもあるの」
「ルシミカ国の一番西で獣人の国の一番東?」
キャノの頭には疑問が浮かんでいるようだ。
「絵本の国の東側にある青霧領とここの西にある青霧領は一緒って事?」
ペコルも首を傾げる。
「つまり、国境の町で2つの国が行き来出来る様に青霧領で2つの国は繋がってるって事だよね」
私はフリザに聞き返す。
「そう、リンの言う通り。2つの国は国境の町だけで行き来出来ると思われてるけど、本当は青霧領を通ってでも行き来は出来る」
「それはおかしいよ! 東にある青霧領が西行くとあるって! 青霧領が2つ無いとそんな事は起きないはずだ!」
「そうだよね」
ペコルは納得いかない様子でキャノも同じ様に思っている。
「何て説明したら……」
フリザも困ってしまった。
「こう言う事ぉ」
カリナは部屋の壁に貼られている地図を剥がす。
「うん?」
「この地図にはルシミカ国しか描かれていないけどぉ本当はこの先に獣人の国があるぅ。それをこうして丸めるとぉ……」
手にした地図を円柱状に丸めて端と端をくっつけた。
「それで?」
「だからぁ……」
「貸して」
私はカリナの持つ地図を貰うと地図の裏に絵本の国の簡単な地図を描いていく。
「え?」
「これだと青霧領が絵本の国の右端で魔人国の左端になった」
「分かった?」
「分かったけど分からない」
「そうだよね。それだと足の下に……」
「まあ、リャルルが到着したら詳しく説明してもらえばいいよ。ルシミカ国は魔王ルシ様と聖人ミカ様が創ったんだから。それと今の話は絶対誰にも話さないでよ!」
こうしてこの日の話し合いは終わる。みんなのこれからの事は話したが、結局キャノの今後の事は聞けなかった。
次の日、私はエリオットに呼ばれ魔貴族の魔力を受け継ぐ儀式を行った。
儀式と言ったがエリオットから巨大な魔力の核の様なモノを首の後ろから入れられた感じがして終わる。
エリオットの説明に寄ると、エリオットの1日分の魔力を凝縮したモノを私に渡しただけ。その代わり、私とエリオットはその日一日何も出来なくなる。だからこの儀式は屋敷に護衛になる様な人が集まった時に行われるらしい。
今日は私の旅仲間が多く儀式をするには絶好のチャンスだったらしい。
私は儀式を終え部屋に戻ると疲れのためかベッドに横になると直ぐ眠ってしまう。
次に私が目を覚ましたのは屋敷が大騒ぎになっている時だった。
「どうしてだ! そんな事が許される訳がない! 時代は変わったんだ!」
「いくら貴女が魔王ルシの生まれ変わりだとしても、そんな話は許されない!」
フリザとキャノの声が私の眠りを覚ます。
「エルフや人族のアナタ達には関係無い。これは魔族の問題。お父さん……いや、エリオット! 命令です。今直ぐ4大魔貴族と3高魔貴族を集めなさい! それとアナタは魔力からすると高魅家の者ね?でも人族の血も流れているのかしら? そうね……聞いてもいい? アナタはどちらに付くのかしら? 魔族? それとも人族?」
私は声のする大広間に歩いて行く。その間もリャルルと思しき声が聞こえてきていた。
『リャルルがいる?』
そう思いながら私は大広間の扉を開けた。予想通りそこにはリャルルの姿とダルを抱くダンの姿があった。それと手に魔法の杖の様な物を持った見知らぬ魔族が数人。
「お母さん?」
そこにいたのはリャルルだが、明らかに私の見た事の無い知っているリャルルとは違う表情をした人がいた。
「リン。迎えに来たわよ。会いたかったわ」
リャルルの声だがどこか違って聞こえる。声のトーンが私の知っているリャルルの声より低く感じる。
「…………」
「どうしたの? こっちに来て頂戴。リンに頼みがあるの」
「頼み?」
「そう。リンの魔法」
「私の魔法?」
「そう、前に使ったでしょ? 死人を生き返らせる魔法。あれを私に使って欲しいの」
「でも……お母さんは死んで無いよ?」
「そうね。見た目は死んではいないわ。でも死んでいたのと同じ。この数百年間……」
「リャルル、どうしたんだ? あの人に会ってからリャルルは少しオカシイよ?」
「黙りなさい獣人」
リャルルはダンにそう言い放つ。
「獣人って……俺は君の夫だよ?」
「それは過去の話。今の私には必要の無い存在。私は魔王ルシに戻る! いいえ、私は魔王ルシよ! 魔王に夫など必要無い!」
「そんな……」
「みゃーみゃーみゃー」
ダンの腕の中のダルが泣いてしまった。




