血縁者を跡継ぎにする意味
「もし良かったら、お姉ちゃんを紹介しようか?」
カリナはラドウの突然のプロポーズにそう答える。
「「え?」」
「是非! お願いします!」
私達の頭には疑問が浮かんだがラドウは乗り気の返事をして頭を下げる。
「カリナ、そんな事言って良いの?」
「良いんじゃないかなぁ? 私も跡取り候補から外れて助かるしぃ、両親も跡取りが出来れば嬉しいだろうしぃ、姉も『誰かこのままの私を養ってくれる人がいないかな』って言ってたしぃ。みんなハッピィー」
「みんなハッピーなのか?」
「その代わりぃラドウには高魅家に婿に入ってもらうよぉ。それで良ければぁ」
「良いよ! 勿論良い! 婿入り大歓迎!」
「「良いんだ……」」
ペコルとキャノの声が揃う。
「フリザやフリザの親は良いの?」
「問題無いかな。兄の結婚に私が口出しするのも変だし、ラドウの母親は死んでるし、私の母もラドウに何か言う事も無いだろうし、父は逆に息子が魔貴族と結婚するなら喜ぶかな」
「そうなんだ……私の家は兄達が婿入りなんて言い足したら大事だよ。『カールの血が絶える』って……」
キャノは少し寂しそうに呟いた。
「まあ跡継ぎは大事だからね。特に魔貴族や君の家みたいな特別な家は……」
「…………」
エリオットが静かに話し始めるのを私達は黙って耳を傾けていた。
「魔王様や聖人様がどう思っていたかは分からないが、私達が生き残るにはそれしか無かったんだと思う。魔貴族は獣人族との争いの中で自分達の家族や魔人族を守るため、カールの子孫達も同じ様に獣人族から国や民を守るため……強い力の血統を繋がなくてはならなかった。表立った争いが減った今は本当はそんな必要無いのかもしれない。でも、もしまた……と考えるとな。守りたいモノが有るんだよ私にも。君達の親にも……」
「だから私に大風の魔力を渡したいの? 私には獣人族の血も流れてるんだよ。エリオットが言う敵の血だよ?」
「そうだな。でも、それも良いのかもなと思う。今の時代、私達魔族も近くで暮らす人族達も、国の違う獣人族も、勿論他の種族達も争いたいって思っている人は少ないんじゃないか? 勿論、相手を許せないって考えている人達もいる、争いで利益を得る人もいるけど、そう思っている人は今は本当に少ない気がするよ。だから多分……ミールの子孫達のしている魔貴族の魔力を人族との間の子供に継がせるって計画は正しいのかもしれない」
「知ってたのぉ……」
「そうだね。計画の最初のターゲットは僕だったから。リャルルの母だったリッピナが魔法道具を使ってまで僕を襲ってきた時に何が目的か考えたからね。『魔貴族の地位やお金かな?』とか、『僕の暗殺かな?』とか、『魔貴族を滅ぼすためかな?』とか……それでリャルル以外の子供達が次々死んで、リャルルだけ生き残って。その後、他の魔貴族達にも人族との子供が生まれて、その子達が魔貴族の魔力の跡継ぎになっていると聞いて……それで思ったんだ。『リッピナの目的は僕の中に受け継がれた魔貴族の魔力だったのかな?』ってね。あの時にリッピナがそう言ってくれれば……妻とあの子達は死ななかったのかな……魔貴族の魔力が欲しいなら譲ったのに。これは魔貴族の中だけの秘密だったんだけど、別にこの魔力は何人にでも渡せるんだから」
優しい声で語るエリオットの目には涙が薄ら溜まっていた。それは誰を想っての物なのか私に分からなかった。
しんみりした空気が部屋中を流れる。
「失礼します!」
そんな空気を破る様に1人のメイドが部屋に入ってきた。
「……どうかしたか?」
「リャルル様が乗ったと見られる馬車が風大領に入ったと連絡がありました。このまま真っ直ぐこちらに向かって来るとすると2日後には到着すると思われます」
「2日後か。リン、どうする? この屋敷で到着するのを待っても良いぞ。勿論、仲間達も一緒にな」
「どうする?」
私はみんなに聞く。
「宿代も浮くし、泊めてもらっても良いんじゃないか?」
「私もそう思う」
「うん。じゃあ、お言葉に甘えて泊めてもらっても良いかな?」
「勿論だ。では部屋は……6つで良いか?」
エリオットは私達の顔を見回してそう言う。
「……1、2、3、4、5、6、7……あれ? 私達7人いるけど?」
「そうか? 1、2、3、4、5、6。6人」
エリオットは1人づつ指を指しながら数えていくがラドウを数え飛ばした。
「私は?」
「孫娘に言い寄る様な不届き者は我が屋敷に泊める訳無いだろ! 出て行け!」
「そんな……私も泊めて下さい。お願いします。旅の資金が少ないんです。頼みますよ」
ラドウはエリオットの足にしがみ付く様にして頼むのだった。




