プロポーズ
町中で立ち話を続ける訳にもいかず私達は一度大風の屋敷に戻る事になった。
「リン、何で逃げたの? 僕は別にリンをここに閉じ込めようとかする気は無いんだよ。前の時も気持ち良く送り出したでしょ?」
そう言われたがまだこの国の人を信用出来ていない。そう思っていると私達の後ろで困った声を上げる人がいた。
「あの……流れで付いて来てしまったのですが、私はなぜここに?」
それはたまたまフリザの兄ラドウと出会って立ち話をしていたエルフのウスノであった。
「ああそうだよね。なんか流れで私達の馬車に乗せてしまったけどウスノさんを連れて来る必要無かったよね。ごめん。後で町まで送るから」
「はい……あと、ウスノって呼び捨てていいですから。皆さんと同じ様に『さん』付けは要らないので」
ウスノがもじもじと言葉を返す。
「分かったわ、ウスノ」
そこで安心したのか初めてウスノが小さく微笑。
「ねえ、ウスノってお酒を探しに来たんでしょ? お爺ちゃんウスノにお勧めのお酒とかこの屋敷にない?」
私はエリオットに話し掛ける。
「お酒? エルフ……蜜酒か?」
「いいえ、蜜酒以外のお酒を探していまして、特にお米から作ったお酒を……」
「米から作ったお酒か……魔族にとっては米は貴重だからな。米の酒なら人族の……ここの南側が産地だと聞いたが、そこなら見付かるかもしれん。我が家で出せる酒ならワインくらいか……」
「ワインですか! 私、ワインも好きです! 何度か飲んだのですが酸味と甘味、それと渋味がワインによって違っていて、どれも味わい深いです!」
「そうか! ワインの味が分かるか! 最近はワインを語り合える友も減ってな……よし! 取って置きのワインを開けよう!」
そう言ってエリオットはどこかへ行ってしまった。
「リン、いいの? エリオットがいなくても話続けて」
「いいよ。エリオットは私がこの家の跡継ぎになって魔力を受け継いで欲しいだけだから」
「魔力を受け継ぐ?」
私の言葉にラドウが反応した。
「そうらしいよ。リンはエリオットの孫で、血の繋がった孫がリンだけだからリンに大風の魔力を受け継いで欲しいんだって」
フリザがラドウに説明するとラドウの目が輝く。
「リン、私と結婚しないか!」
「はへぇぁ?」
私は思わず変な声を出してしまう。
ゴン
「何言ってんの!」
フリザがラドウの後頭部を思いっ切り殴る。
「痛……私は気にしないよ? フリザは姉が獣人族になるのが嫌なのかい?」
「そっちじゃない! リンはまだ2歳よ! ラドウは魔力が手に入れば誰でも良い訳? 最低……」
「誰でもは良くないよ? 子供が出来て、この子が魔力を受け継いで、その魔力を私が受け継いで私の魔力が高められたら別れても良いし。その後彼女が再婚しても構わない。私は束縛しないよ?」
「それは本気?」
「え? うん」
「父さんと同じ……」
フリザは頭を抱えてしまう。
『フリザのお父さんも同じって親子で魔力バカなのか魔法バカなのか?』
そう思ったが
「断る!」
私はそうラドウに言い放つ。
「ダメかー」
「…………」
「ダメに決まってるでしょ!」
「ダメに決まってるだろ!」
「ダメに来まっってるよ!」
ラドウの『ダメかー』にフリザの後頭部へのチョップの突っ込みと、私とペコルとキャノの突っ込みの言葉が入る。
「何々? 何かあった?」
私達の突っ込みの瞬間にエリオットがワインボトルを手に戻ってきた。
「孫娘をお前なんぞにやるか!」
メイドからそれまでの話を聞いたエリオットの特大級の風魔法をお腹に受けてラドウが窓から外に吹き飛んだ。
「「「「…………」」」」
それをみんな無言で見送る。
「じゃあワインを飲もうか。リンは……ジュースかな?」
エリオットは吹き飛んだラドウを無視してテーブルにグラスを並べ始めた。
外では何人かのメイド達がラドウの手当をしているのが見える。
『大丈夫なの?……大丈夫そうか……普通に歩いてるし……フリザのお兄さんって天然なのかもしれない』
普通に何事も無かったかの様にラドウはテーブルに並んだワインの1つを手に取った。
「大丈夫なの?」
私は隣のフリザに聞いてみた。
「平気平気。エルフは魔法耐性が強いから」
そう言ってフリザはグラスに注がれたワインを一口飲んで頷く。
「良いワインですね!」
ウスノが嬉しそうな声を上げる。
「うん。素晴らしい」
ラドウが何事も無かったかの様にワイングラスを傾けていた。
「良く分かんないなぁ」
「そう? 美味しいよ。カリナも魔貴族の娘なのにワインはあまり飲まないの?」
キャノの言葉にラドウがピクリと反応する。
「カリナ、結婚しよう!」
「…………」
部屋にいる全員が無言になってしまった。
「オイ!」
またフリザのチョップがラドウの後頭部に入った。




