フリザの兄
大風家の屋敷を逃げ出し、風大の町に向かって馬車を走らせる。
「まだリャルル達は来てなかった。この分だと風大の町にもまだ来てないだろうな」
「そうだね。まずはキャノとカリナの2人と早めに合流しよう。それから次に首都エル方面に向かうか、それとも飛行艇で上空からリャルルさん達の乗った馬車を捜すか」
「このまま馬車での移動になったら飛行艇は置きっ放しにするの?」
「…………」
私の口にした素朴な疑問に2人は黙ってしまう。
そのまま無言でフリザは風大の町に向かって馬車を進める。
「キャノ! カリナ!」
2人は町中で首都方面の街道から来た商人達や冒険者達にリャルル達の事を見なかったか聞いて回っていた様だ。今も誰かと話をしているのが馬車の荷台から見えた。
『珍しいな。相手はエルフの二人組か……』
キャノ達が話している相手がこの国に来てからフリザ以外で会った事の無いエルフだったのだ。
「…………兄さん?」
フリザがキャノ達の話している相手を見て思わぬ言葉を吐く。
「おお、フリザじゃないか! 久しぶりだな」
そう言ってこっちに手を振るエルフの男性。
「何でここに? 兄さんは南の雷高領に行ったんじゃなかった?」
「それは何年前の話だよ。今は魔法道具の研究をしながら国中を旅してるんだ」
「魔法道具の研究? 雷魔法はもう極めたの?」
「いやそれは無理だった。雷魔法を極めるには高雷家に生まれないとダメらしい。それか高雷家の娘と結婚して2人の子供が跡継ぎになって歴代の高雷の魔力を受け継いで、更にそれを私が譲り受けるしか無いそうだ」
「何その複雑な……」
「複雑でも無いぞ。魔貴族の魔力は本人の2親等までにしか受け継げないんだそうだ。だから私と高雷家の娘の子供を経由してなら私にもその魔力の恩恵が受けられる。簡単だろ」
「でも出来なかったんだよね?」
「高雷家に娘がいなかったんだよ!」
「ああ……」
そんなフリザとその兄の遣り取りを私とペコルは馬車の中からしばらく聞いていた。
「改めて紹介するね。私の兄の不痺雷ラドウ。っで旅仲間のペコル、キャノ、カリナ。そして私の護衛対象のリン」
フリザが順番に私達を紹介する。
「どうもフリザの兄です…どうも…どうも…………どうも」
そう言ってラドウは私達に握手を求めるが、なぜか私の時だけ何か間があった。
「それで、そちらの方は?」
フリザはラドウの少し後ろにいるエルフを見た。
「そちら?」
「そちらのエルフの女性」
そう言われラドウは後ろを振り返った。
「名前……何?」
「奥棲雪ウスノです」
「よろしく」
「は……はい」
「兄とはどう言う関係?」
「どう言う……数分前にそこで話し掛けられました」
「は? ちょっと兄さん、知り合いじゃないの?」
「え? 知らないよ。エルフなんて珍しいなと思ってちょっと前に声を掛けたら……そこの2人に話し掛けられたんだけど?」
ラドウはキャノとカリナを見る。
「ごめんなさい。てっきり兄の旅仲間か何かかと思って」
「いいえ。私もエルフの里から出て来たばかりで誰も知り合いとかもいなかったので話し掛けられてホッとしたところです。ここは人族ばかりなものですから、誰に話し掛けていいのか分からなくて」
「そうだったの! 里から出て来たばかりなのか。ウスノさんはどうして里を出たの?」
「あの……お酒を……」
「お酒?」
「はい。エルフの里には花の蜜から作った蜜酒しかな無かったのですが、前に一度飲ませてもらったお米のお酒の味が忘れられなくて……どこで飲めるか知りません?」
「ごめん、お酒に詳しくないから」
「そうですか……残念」
ウスノの事はエルフ同士のフリザに任せて私とペコルはキャノとカリナに聞き込んだ中にリャルル達の話はなかったか聞く事にする。
「何か聞けた?」
「まだリャルルらしき人は来ていない様です。そちらの大風家の方は?」
「屋敷にもまだ来てない。でも、こっちに向かってるらしいよ。何か情報は入ってるみたいだったけど、逃げて来たんで詳しくは聞けてない」
「それでこれからなんだけど、このまま馬車で街道を首都方面に進んでこっちから会いに行くか、それとも飛行艇で空から捜すかって話になってるんだけど。2人はどうする方が良いと思う?」
「私はどちらでも。この町で待っても良いですし。カリナは?」
「私はぁ、この町で待つかぁ飛行艇で捜すかぁどちらかぁ。馬車で飛行艇を離れるのはちょっとぉ……借り物の飛行艇を放置出来ませんよぉ」
「だよな。でもこの町で待つって言っても……」
「追い付いた! リン、逃げないでおくれ!」
急いで追い掛けて来たのかエリオットは馬車では無く風魔法で空を飛んで来た。




