カリナの再会
フリザが案内したのは毒高領の毒高の町外れにある屋敷だった。
「ここは?」
「ここは三高魔貴族の高毒家の屋敷」
「ここで何をするの?」
「飛行艇を借りる」
「飛行艇を借りる?」
そう聞いたペコルにフリザはギリギリ見えるくらい離れた高台に停まっている飛行艇を指差す。
「飛行艇……見える?」
ペコルより少し背の高いキャノがフリザの指差した方向を隣のカリナに聞いた。
「有るよぉ」
カリナはペコルと同じくらいの背の高さなのだが即答する。
「カリナにはあれが見えるの?」
「知ってるだけぇ。あそこに飛行艇が有るってぇ」
そう話していると屋敷の中から1人の緑髪の男性が出てくるのが見えた。
「うわ! カリナだ! 心配してたんだよ! 無事だったんだね! 良かったよ!」
やたらテンションの高い声でカリナに話し掛ける。
「あぁ……ぅん……」
馴れ馴れしい態度に困った様子で返事を返すカリナ。
「カリナもジャンチ知り合いだったんだ」
「まぁ……」
「魔族軍候補生時代の同期だよね……ってフリザ先生? うわ! 懐かしい!」
距離を取ろうと言葉少なげなカリナに対しジャンチとフリザに呼ばれた男はどこか嬉しそうだ。
「ジャンチは私が魔法の家庭教師をしていた時の教え子の1人。魔法使いとしては優秀だったよ」
フリザの言葉にジャンチは不満そうだ。
「フリザ先生、魔法使いとしては優秀って何? 僕は魔法も他の何でも得意で優秀だよ。ねぇカリナ、僕って候補生の時も優秀だったでしょ?」
そう言ってジャンチはカリナにウィンクした。
「ま……まぁ優秀……だったわぁ……」
カリナはジャンチが来てからずっと居心地が悪そうにしている。その様子を見たフリザがジャンチを「相談があるんだ」と屋敷の中に連れて行った。
「カリナどうした?」
「……ジャンチは私が魔族軍に候補生として入った時に最初に魔法道具で魅魔法を使った人ぉ……それでぇ……魔法が効き過ぎたのかぁ、それからずっと私に付きまとう様になってぇ……」
「魅魔法で誘惑しただけなのが本気になられたって事?」
「まぁ……そぅ……」
「…………」
ここまで私はみんなの遣り取りをずっと黙って聞いていた。
「この眼帯の下の目がピンク色になってぇ、魅魔法が魔法道具無しでも使える様になってからもぉ、魔力の高い相手には魔法道具を使っていたんだけどぉ……私自身の魅魔法も上達していたらしくてぇ……」
「ねえ、それって本当に魔法のせいかな? あの男がただ単純に魅魔法とは関係なくカリナを好きになったんじゃない?」
「ぇっ……!」
カリナは私の言葉に驚きの表情をみせる。
「飛行艇貸してくれるって」
フリザが屋敷から出て来た。
「貸すって言うか……あげる! カリナにプレゼント!」
「…いやぁ……貰うのはぁちょっとぉ……それに飛行艇は軍の貸与品でしょぉ?」
「いやあれは僕の個人の所有物。古くなった飛行艇を買い取ったんだ」
「ぇっ……買いとったぁ…………」
私達はジャンチの言葉に言葉を失う。
「それと……これ。カリナは戦闘が苦手だったから。護身用に…次に会ったら渡そうと思ってて……何年経ったか……渡せて良かったよ」
そう言ってジャンチがカリナに手渡したのは1丁の銃だった。
「銃ぅ? 何で私が戦闘が苦手ってぇ……」
「知ってるよ。カリナは常に魔法道具を使って周囲に本当の姿を見せない様にしてたけど、僕にはほら……これがあるから。魔法除け」
そう言ってジャンチが出したのは魔法除けの魔法道具だった。
「魔法除け?」
「そう。だからカリナの魅魔法には最初から掛かって無かったんだ」
「そぅだったんだぁ……って、えっ! それなら何で私にぃあんなに親切にしてくれてたのぉ?」
カリナの言葉にみんな呆れた様な顔になる。
「カリナって意外と鈍かったんだ……」
キャノがそう言ってペコルとフリザが頷く。
「じゃあねぇ、ジャンチ飛行艇借りるねぇ……それと銃ありがとぅ」
「じゃあ。飛行艇を返しに来る時に返事聞かせて」
ジャンチはあの後、正式に告白した。
カリナの答えは保留。「次に会うまでに考えておく」と伝えていた。
私達5人の乗り込んだ飛行艇は風大領に向けて出発。借りた飛行艇は少し旧型のためかスピードが前に乗っいた飛行艇に比べ遅い。それでも馬車での旅に比べれば何倍も早い。そして、この飛行艇はかなり大きいものだった。なのでここまで乗っていたあの二頭立ての大きな馬車も乗せられた。
「この速さなら明日の朝には風大領に着けるかなぁ」
「いいの? 返事次で?」
「いいよぉ……どうせ断るしぃ」
「断るの?」
「ジャンチは高毒家の跡取りだよぉ。私は高魅家の跡継ぎだしぃ。結婚とかぁ……許してもらえないからぁ」
「ああ……そうなんだ。でも渡してみたいに家を出たら? カリナには姉上がいたよね?」
「マリナは……」
カリナは何か言いかけて話を止めてしまった。
そこからカリナは風大領に着くまで口を開かなかった。




