続ルシ 再会
リンが攫われた。
ダルを抱いて私はダンと宿を探して戻って来るとリン達の乗った馬車が消えていたのだ。
「馬車は?」
私と夫のダンは辺りをキョロキョロ見るが近くに馬車は見当たらない。
近くにいた人達に聞いて回っていると「凄い速さで西に向かって行った」と言われ、何があったのか分からないが私達も西に向かう事にして馬車を借りた。
「みゃーみゃー」
町を出た瞬間、ダルが空に手を伸ばして鳴き声を上げ、私とダンが見上げると遠くに飛行艇が飛んでいるのが見えた。
数時間後、隣町の魅高の町に辿り着いて、国境の町から馬車が来なかったか聞いて回った。しかしリン達の乗った馬車は見付からない。
『どこかで追い抜いた?……そんな訳無い。この町までは一本道だった。街道から外れた?』
「リャルル、あの町を出る時に見た飛行艇の発着場に馬車が乗り捨ててあったって!」
ダンが聞き込みしていてそう聞いたらしい。
「その馬車はどこ?」
「行商人が見付けて……」
「その行商人はどこ!」
「こっち」
ダンに案内させて向かった場所に見覚えのある馬車が停まっていた。
「私達の馬車! 中は!」
駆け上がる様に荷台に乗り込む。
「荷物はそのまま……飛行艇の発着場に乗り捨ててあったって事は……飛行艇で連れ去られた!」
何とか首都エルまで辿り着いた。
魅高の町で飛行艇の向かった方向を聞き、西に向かって旅を続け10日目の夕方。
町に入った瞬間、
「ルーちゃん!」と呼ぶ懐かしい聞き覚えのある声。
慌てて私は馬車から顔を出す。
「ルーちゃん!」
「ミ……ミーちゃん?」
何を思ったのか自分でも意識せずに口が勝手に思わずその言葉を発してしまうと、フードを被った女性が走りよって私に抱き付いてきた。
「そう……会いたかった!」
私はその懐かしい誰かを体が勝手に動く様に思わず抱きしめ返してしまう。
「みゃーみゃーみゃー」
「誰?」
ダルとダンが不思議そうに抱き合う私達を見ていた。
何百年振りかの再会。双子の妹ミカ。聖人ミカ。
「会いたかった…………ごめん。ミールが……」
「ああ……うん……もういいよ……昔過ぎて忘れかけてるし……今はルシじゃないし……」
「それでも……謝らせて。本当にごめん。会いたかった……でも……ルシ変わったよね?」
「まあ……別人だからね。ルシだったって記憶はあるけど、忘れてる事もあるんだ」
「忘れてる事?」
「うん。リンに……娘ね、娘に言われて気付いたんだけど、使徒になる前の違う世界の記憶がほとんど無いのよ。だからミカをミーちゃんって呼んでしまったのも無意識なんだよね」
「記憶……それってルシのあの力で記憶を消したって事?」
「ルシの力で記憶を消す? 私にそんな力があったの?」
「それも憶えてない……じゃあ……」
そう言ってミカは私の額に自分の額をくっ付けた。
「あっ……」
頭が熱くなり脳が震える感覚が襲い、キーンと頭痛がすると同時に頭の中に映像と言葉と感情の様なモノが入ってきた。
「どうかな? 私から見たルシの姿も入ってるからルシの元々の記憶とは少し違うかもしれないけど。私達が最後に会った時に交換した記憶だよ」
「確かに……私が城を出るって言った時、最後に交換した記憶……そうだった……何で……何で……私はリンから……」
私の目から涙が勝手に流れていた。それは後悔の涙。使徒になる前の世界で両親に思っていた事。
『何で一緒にいてくれないの! 何で私達を残して行ってしまうの!』
私が同じ事をリンにしていたんだと。
『大切な人とは一緒にいないと……そう思っていたのに……何でリンをダンに任せて仕事をしていたんだろう……そして今もリンを他人に任せてしまって離れ離れに……何で他人を信用してしまっているんだろう……他人なんて信じちゃいけなかったのに……』
「行かないと!」
私はミカと2人だけで話すために誘われたミカの城の部屋を出て行こうと立ち上がる。
「ちょっと待って! まだルシに食べてもらいたかった……」
「分かってる……でも、リンを見付けるのが先。ミカの記憶……リンは北の毒高領にいるのね。リンも私を捜してるのね」
私に流れ込んだミカの記憶からリンの居場所が分かる。
『今から毒高領に行ってもまた行き違いになるに違いない。それなら……大風領に行く方が確実』
「ルシ。待ってって!」
私はミカの言葉を無視する様に部屋を出た。
「リャルル!」
廊下に先にダンがダルを抱いているのが見える。
『何で私はあんな男と結婚したんだろう……他人を信じないと誓ったのに……だけどそれでリンとダルに会えた……』
私はダンに駆け寄るとその腕からダルを奪い取る。
「リャルル?」
「……急ぐわよ! 大風領に向かう!」
「大風領?」
「リンは必ずそこに向かう! 早く行くわよ!」
「え?……え?」
ダンを急かせてミカの城を出た。
「待って! ルシ!」
後ろからミカの声が聞こえる。
「その名前で呼ばないで! 私はリャルルよ! ルシは死んだ! アナタが殺したのよ!」
そう言い捨ててミカを睨む。
「でも……もういいって……」
「忘れてただけ。思い出させてくれてありがとう。偽善者さん!」
ミカの目から涙が溢れるのを無視して私は馬車に乗り込んだ。




