ルシ
「「私達は絶対生き残る!」」
事故で両親2人の呻き声が聞こえなくなり、双子は閉じ込められた車内後部座席でお互いの手を握り誓い合った。
死んだ両親は子供からみて『良い親』だったとは言えない。
2人共出掛けて、まだ5歳の双子を何時間も放置する事も何度もあった。
だから私は『大嫌い』と思っていた。
「「お腹空いたね……ハハハ」」
2人で同じ事を言って笑い合う、それが2人だけのいつもの光景。
たまに帰って来た親達はそれぞれがテーブルの上にパンや弁当、ジュースやお茶等を置いていく。
「忙しいんだから面倒を起こさないでよ!」
そう言ってまた出掛けてしまう。
「「2人で助け合って生きていく!」」
部屋に残された私達はテレビを見たり、絵本を読んだり、タブレットで動画やアニメを見たりして静かに騒がす毎日を過ごす。
そして1年に数度、4人で車で出掛ける。2人の祖父母の家に連れて行かれるのだ。
「保育園とかには通わせないの?」
祖母のその言葉に両親は
「誰が送り迎えするの? 私達2人とも忙しいの」
「保育園に預けて熱でも出して迎えに来いって言われても困るでしょう」
「それなら最初から預けなくても良いでしょ」
「私達の子供なのだから家で2人で大人しくしていられる。賢くて静かで喧嘩もしないで2人でお留守番の出来る良い子」
「…………」
「うん」
頭を撫でられたが私は表情を変えず無言だった。隣のミーちゃんは笑顔で返事をする。
そんなお出かけの帰り道の事故。
「う……うぅ…………うぅぅ……………………」
「んぅ……ぐっ…………うぅ……………………」
前の運転席と助手席から呻き声が聞こえていたが、それも直ぐに聞こえなくなった。
私は隣に座る双子の姉の手をギュッと握る。
「私達は絶対生き残る!」
憶えているのはそこまで。
次に気が付いたのはどこかのベッドの上。
隣のベッドには妹のミーちゃんが寝かされている様だ。
「生まれ変わるなら何になって何をしたい?」
ボヤッとした目に『白い…天使』が映る。
「生まれ変わるなら……私は……自分達を幸せにしたい。だから……」
「それじゃ生まれ変わらせてあげるから私のお願いを聞いてね。向こうの世界で使徒になって……」
私は魔人族の家に『ルシ』として使徒の力を持って生まれた。妹のミーちゃんとまた一緒に双子として。
私達の生まれた家の両親は比較的魔力の高い母と魔力の少ない父。
母はその高い魔力を見込まれて魔貴族との縁談があったのだが、それを断って幼馴染みの父と結婚したらしい。
「魔人族は魔力が多い者同士で結婚して強くならなくては、いつまで経っても獣人族に虐げられたままだ」
獣人族は子供を産む数が魔人族に比べて多い。なので相対的に人口が多い獣人族に『魔人族は虐げられている』と魔人族達は感じていて、互いにいがみ合う結果になっていた。
時折、小競り合いが起こっていたがルシ達が大人になる頃には小競り合いでは済まなくなってしまっていた。
何人もの怪我人や死人も出て獣人族との間に戦争と言える様な戦いも起き出した。
「このままじゃ魔人族も獣人族も大きな犠牲が出る」
私はミカにそう相談された。
「仕方ないよ。私は私とミカが無事ならそれで良い。魔人族も獣人族も犠牲が多くなればどこかで争うのを止めるんじゃない? それかどちらかが滅びるか……」
「私は嫌! 誰も不幸になって欲しくない!」
「それは無理だよ。誰かが幸せになった反対側の誰かは不幸になる」
「何それ。前の世界の何かの動画かアニメの受け売り? みんなが幸せになったって良いじゃない!」
「どうやって? 嫌いな者同士が隣同士で暮らしているんだよ?」
「隣同士……隣同士じゃ無くなれば……ルシ、協力して! ブック!」
私は魔力を貸しミカの使徒の力でもう一つ国を複製魔法で創り、魔人族と一部の亜人族を移住させた。
それから数百年。
私達の創った新しい国は……争いが起こっていた。
「どうするの? また複製魔法で国をもう一つ創る? それで今度は人族を別の国に移住させるの? 前の移住の時も魔人族達を戸惑わせたのに?」
ミカは単純に気の合わない者が別々になれば幸せになれると思っていた様だ。だが人の幸せはそんな単純な事で解決出来るものでは無と前世の何かで見た気がする。
「私達、少し離れて暮らさない?」
私はそう言って隣同士で建てた城を出て放浪の旅に行く事にした。
そして数年後、ミカに引き取られ育てられていた孤児の1人に『私、魔王ルシは殺された』が、近くの妊婦のお腹の中に転生した。
転生した体の母親は魔王ルシを殺した勇者と人族の間で呼ばれる男の信奉者だった。
勇者は魔族の力を人族が手に入れるための画策をしていて、私の生まれ変わりリャルルはその計画の一環で生まれたのだった。
しかし、勇者の計画は上手くいかず私達母子は命を狙われ逃亡し、隠れながらいくつもの町を転々として過ごす。
人族だった母は旅の途中で寿命を迎え旅は独りになり、流れ流れて私は獣人族の国に辿り着いていた。
そこで冒険者として生活し、そこの領主にスカウトされて秘書兼護衛として雇われる。
私を雇った領主が死に領主官邸を追い出さだが、次の領主選定で候補者が争い次々命を落とす。結局、残った領主候補は前の領主の息子だけ。
また新しい領主に秘書兼護衛として雇われる事になる。
領主官邸を追い出されていた時に前の領主からの頼みで訪れた使徒の遺跡。そこで運命の出会いをした。
黒猫族のダンと結婚、子供も生まれた。
『これからはこの子を一番に守っていく!』




