最初の絵本
「みんな集まって。絵本を読みますよ」
ピョコル先生は手に1冊の絵本を持ってクラスのみんなを集める。
私はみんなの1番後ろに少し離れて座った。
「では、今日は新しいお友達もいるので最初の絵本の話を読みますよ~」
「「はーい」」
「最初の絵本
昔々、神様が何も無いこの世界に最初の人を呼び寄せた時、その子の手には絵本しか有りませんでした。
神様はその子に【この世界にはまだ何も有りません。その手に持つ絵本を捲ってあなたがこれから新しい世界を創るのです】
その子が手に持つ絵本を開くと、そこには海が描かれていました。
『海だ!』次の瞬間、何も無かった世界に海が広がりましす。
その子は次のページを捲ります。
『島?』世界に島が現れます。
『凄い!』
次のページには『木』、その次のページには『草』、次のページには……楽しくなったその子がページを捲る度に世界に植物が増えていき、どのくらい時が過ぎたのでしょう、絵本に『動物』達が描かれはじめます。
楽しくなって更に次に次にとページを捲る手が止まりませんでした。
ページを捲り続け気が付くと海も島も大きく拡がり、海にも島にも沢山の動植物が溢れていきました。次第にその子が何もしなくても植物が種を落とし新しい植物が増え、動物達が次々増えていく植物を食べ、その動物も別の動物に食べられ、その子が絵本のページを捲らなくても動物も植物も勝手に増えるようになっていました。
その子はいつしか大人になっていました。絵本のページを捲るのが楽しく無くなっていました。
休まず絵本のページを捲っていた手が段々遅くなっていきました。
この世界にまだ無い新しい種類の動物や植物が描かれていても楽しく無くなっていました。
『疲れた……』
いつしか絵本を捲る手が止まりました。
『新しい物が出来なくなる……』その子はそう思いましたが 動植物達は自分とよく似た自分とは少し違う物を産んでいきました。
『絵本なんて要らないじゃないか……』
その子は絵本を投げだし横になって目を瞑りました。
その子はこの世界に来て初めて眠りにつきました。
凄く疲れていたのでしょう。その子が目覚める事はありませんでした。
【フフフ】
神様は微笑むとその子を最初に出来た島の真ん中に埋めてしまいます。
海も島も大きくなる事がなくなりました。
お終い」
「ピョコル先生。その子が埋まってる場所はどこにあるんですか?」
アンが手を挙げて質問する。
「本当かは分かっていませんが、この国の4つの領の境目に有る神殿がその場所だと言われています」
「ピョコル先生! 私達も5歳になったら神殿に有る最初の絵本を触れるんですよね!」
アイが手を挙げる。
「そうですね」
「触れるだけですか? 絵本は読めないんですか?」
「触れるだけです。私達には絵本が開けません。ですが絵本に触って私達が産まれた時に体に溜まってしまった魔力を吸い取ってもらうのですよ」
「魔力を吸い取ってもらわないとどうなるんですか?」
アイは私の方をチラッと見て少し笑ったように見えた。
「体に溜まった魔力で病気になり、10歳までに死んでしまいます」
『えっ! 魔力が体に溜まると死んじゃうの! それって定期的に絵本に触らないと死ぬ?』
「先生、何で魔族や人族は絵本に触らなくても死なないんですか?」
アイがまたチラッと私を見る。
「私達獣人族は体に魔力を貯める器官は有るのですが魔力を体中に運ぶ器官が無いのです。なので魔力を貯める器官で魔力が動けず固まってしまい死んでしまうと言われているのです。魔族は魔力を貯める器官と魔力を体中に運ぶ器官が有るので魔力が体中で使われて魔力が溜まって死ぬ事は無いそうですね。人族は元々魔力を貯める器官が無いので魔力が固まって死ぬ事はないそうです」
「ドワーフはどっちなんですか?」
アンが魔力の器官の話に興味を引かれたのかキラキラした目で質問する。
「先生もそこまで詳しくないから……アンちゃんが大きくなったら研究者になって調べてみてもいいんじゃないかしら?」
「そうですか……」
アンは残念そうに下を向く。
「先生! 研究者なんてダメですよ! アンは私と冒険者をするんですから! ねえアン!」
「うん……」
「冒険者ですか?」
「そうです! 女の子は騎士になるための領兵になれないんですから! お父様のような騎士になるには女の子は冒険者で活躍して名を上げるしかないんですよ!」
アイは興奮気味に語気を強める。
「……そうですか。アイちゃん、騎士になりたいって本気だったのですね」
ピョコルは哀しそうな表情になる。
「先生も女の子だからって……!」
アイはそう叫ぶと部屋を出て行ってしまった。
「先生、ごめんなさい。アイちゃんはお父様のような騎士になりたいって思ってて、でもお父様は『ダメだ』って、なのに弟のコウが産まれたらコウには『俺の後を継いで立派な騎士になるんだぞ』って……だから」
アンはずっと下を向いたままだったが、その声だけは強く聞こえた。
「アンちゃんは優しいわね。でもアンちゃんはアンちゃんが本当になりたい者になりたいって言ってもいいのよ?」
下を向くアンの頭を撫でたピョコルの声は優しかった。