3人の旅支度で買った物
ラムメェの話を聞き流しながらペコル達が迎えに来てくれるのを待つ。
「リンは大人になったら遣りたい事とか無いの?」
それまでお金を儲けの素晴らしさを語っていたラムメェが急にそんな話をしてきた。
「大人になったら……」
そう言われ改めて考えた。
『大人……獣人族の成人は6歳。洗礼式……獣人族を創った使徒の絵本に触れてそれまでに体に溜まった魔力と交換に体を成長させるってのが通常の獣人族の大人だけど、私はずっと魔法を使ってるから体に魔力が溜まってない。これってどうなるのかな? そもそも獣人族のハーフって今までどうしてたんだろう? 誰か知ってるのかな? このまま私が大人になるのは人族や魔族と同じ年を重ねないとダメなのかな?』
私はそんな風に考えていた。
「リン? どうかした? 難しい顔してるよ?」
「ええ? あ……うん。私って6歳になったら洗礼受けれるのかな?」
「洗礼? そうか! リンは純粋な獣人族じゃ無いんだ! どうなんだろう?」
「私の他に人族や魔族とのハーフの獣人族っていないの? この町はどっちの種族も暮らしてるでしょ? ここになら私と同じ様な人もいるんじゃない?」
「どうかな? そう言えば聞いた事無いかも。なんか昔からタブー視しててその話題に触れてないんじゃないかな?」
「ラムメェも知らないの?」
「私がこの町で暮らし始めたのは最近だから。元々コットン商会の本店の有る白羊の里で育って、この町にはピオネの金銭面の交渉とかで雇われたのとコットン商会の支店を任されてなんだ。だから聞くなら……ピオネかキャノに聞くのが良いかな? ……噂をすれば。ピオネ達来たよ」
ラムメェの用意したあの大きな馬車が見えた。
「リン、準備出来たよ。そっちは氷魔法上手くいった?」
ペコルが御者台から降りて、続いてフリザとキャノ、それからピオネとワォンが荷台の横から降りて来るのを私は目で追ってある事に気付く。キャノが見慣れない鎧を着ていたのだ。
「キャノ? その鎧は?」
「買っちゃった」
「それ勿論、自分のお金で買ったんだよね?」
「えへ」
「『えへ』って……もしかしてラムメェから受け取ったお金から出したの!」
「まあね。ダメだった? これからの旅に必要だよ?
ペコルは軽装備の遊撃担当でフリザは後衛、それならこのパーティーの前衛は私になるでしょ?」
「それはそうだけどキャノは自分のお金あるんだよね?」
「それが……それほどでもないのよ。鎧を買うお金なんて無くて……」
「でもキャノはこの町の騎士団の団長だったんだよね?」
「まあ団長だけど団員さんは誰もいないの。仕事も兄達の騎士団の手伝いだったし、私が魔物を倒すと素材が売り物にならないって言われて、小物の掃討だけで大物の討伐はさせてもらってなかったのよ。だから収入も少なくて……でも任せて! 実力は有るから! 素材を気にしないで倒すなら誰にも負けないで速攻で倒すよ!」
「…………」
私がキャノの話を聞いて無言になるとペコルが隣に寄ってきて小声で耳元に囁く。
「キャノには魔物を引き付けさせて私が素材を傷めない様に倒すから」
私は無言でそれに頷く。
「良いね! 私の魔法より良いかも。でも、床は土魔法で滑らない様にした方が良いよ」
私が氷魔法を掛けた荷台を見てフリザが言う。
「そうなんだね。土魔法か。今から掛けるよ」
「いや大丈夫、もう床を滑らない様に土魔法掛けておいたから」
フリザは仕事が早い。
「倉庫の方も……」
そう言いながらフリザが倉庫に入っていく。それをラムメェが追い掛けていった。
倉庫の手直しもフリザとラムメェに任せて私はみんなが買ってきた旅の荷物を見て回る。
「フリザ食料庫造ったんだ。食料……多いね。肉と果物……」
荷台の一画に冷蔵室が造られ肉と果物でいっぱいになっていた。
『お金儲けじゃないとエルフの氷魔法っても良いのねフリザ……』
更に見ていくと冷蔵室の中に何か樽の様な物を見付ける。
「これは?」
「それはミルク……」
「ミルク?」
「ペコルが冷蔵室が有るならどうしてもって」
「どう言う事?」
「ずっと我慢してたの。ミルクがずっと飲みたかった。でもミルクって日持ちしないし諦めてたんだけど、氷魔法の冷蔵室が有ればミルクをストック出来るんじゃないかって思ってフリザに聞いたら『1週間は大丈夫』って。……それに私はそんなにお金使ってない、ミルクだけだなんだから。フリザは高い朱森領産の果物だよ。キャノは大量の肉と鎧も買ってるし……」
「肉は必要。筋肉には肉が大事! ほらこの筋肉を見て」
そう言って分厚い胸筋を叩く。
「それは本当に筋肉だけなのか?」
ペコルが呟く。
キャノの胸は近くを歩く人が振り返るくらい目を引き付ける。
「ねえ、ラムメェがまだ果物売ってくれるって!」
フリザはそう言いながら倉庫から出て来た。
「私が冷蔵車と冷蔵倉庫造ったお金、後どれくらい残ってるの?……みんな自分のお金じゃないからって無駄遣いし過ぎ!」
私は思わず叫んでしまった。




