用意された馬車
「金を貸してほしい?」
「うん」
「キャノはいつも鎧姿で出掛ける事も無かったし無駄遣いしてるところも見なかったが、そんなに金が無いのか?」
「ああ! 私じゃ無くて2人に」
そう言ってペコルとフリザの2人の方へと指を指す。
「うーん……ペコルとは知らない仲では無いが、もう1人のエルフはな……それに冒険者に金を貸すのは返ってくる保証が無いからな……ラムメェなら貸すと思うぞ? ラムメェが来たら聞いてみるか?」
「ラムメェ……それはラムメェに直接借りるって話じゃ無いよね?」
「まあそうだろうな。コットン商会に借りると言う意味になるだろうな」
「コットン商会は……うーん……もし私に何かあった時に家族に迷惑が掛かるから……」
ペコルは悩む。
「ねえ、私がフリザと同じ様な魔法で冷蔵車を造るってのは?」
私は悩むペコルに代わってピオネに話す。
「冷蔵車?」
「そう、馬車の荷台の内部を半永久の氷魔法で凍らせて中の物を長持ちさせるの。前にフリザがコットン商会の馬車に使たよ」
「そんな魔法が? 知ってるか?」
ピオネは横にいたワォンに聞く。
「私も知らないですね。でもラムメェが来たら聞いてみたら? ラムメェなら知ってるかも」
「そうだな。もう直ぐラムメェが馬車を持ってくるから、その話はその時に……」
「あの、その馬車の話もラムメェに頼むってユキが言ってたけど、そのお金も必要だよね?」
「そう……だな」
「ラムメェに断られたら馬車のお金も無いよ」
ペコルが頭を抱える。
「その時は魅高領に行って魔物狩りをして稼ぐしか無いな。ギャハハハ」
ピオネはそう言って笑った。
ラムメェとユキが馬車を用意して来てくれたのはピオネ達が来てから1時間後くらいだった。
「女4人での旅だから、馬車は宿代わりにも出来る様に大き目なのを用意したよ」
そう言ってラムメェが乗って来た馬車は私達が国境の町までに使っていた馬車よりかなり大きな物だった。
「これ……高いよね?」
「値段?」
「うん」
「そうだね。それなりに。でもこのくらい無いと不便だよ? ルシミカ国は街道には殆どの魔物は出ないけど、その代わり人族の盗賊は出るからね。ミカ様の教えが今も残ってて人族への罪は基本的に軽いから」
ラムメェが説明してくれる。
「罪が軽い?」
「そう。なんか人権?ってのがあるからとか、更生するためとかって言われてるらしくて、獣人族なら死刑になる様な罪でも何年か牢屋で過ごせば普通に暮らせるらしいよ。だから盗賊をして捕まっても何年かしたら戻って来てまた盗賊になる人もいるの」
「更生してないじゃん!」
私は思わず叫んでしまう。
「仕方ないよ。盗賊になる人は他にお金を稼ぐ方法が無いんだから。冒険者になれるなら冒険者になるだろうし、商売人になれるなら商売人になるでしょ? それが出来ないから人から物を盗むんだから」
「そうかも……でも人族だけ? 魔族の盗賊は? 盗賊に魔法を使われたら馬車なんて……」
「魔族の盗賊はいないよ。そもそも魔族は盗賊になる必要が無いし盗賊になる理由も無いからね」
「理由が無い?」
「魔族は人族と逆に罪に対しての罰が重いのよ。盗賊なんて魔族なら捕まれば即死刑。盗賊の中に魔族がいるって分かったら直ぐに魔族軍が来て連れて行かれてしまう」
「魔族軍、怖!」
「魔族は元々戸籍がしっかりしてて、保証も有るし盗賊をする必要が無いのに、それでも分かってて盗賊になったなら死刑らしいよ」
「ラムメェは人族や魔族に詳しいんだね」
私はラムメェの話を聞き素直にそう思った。
「私や私の家族は人族や魔族とも商売の取引が有るからね。商売相手の事を知らないと良い商売にはならないから。儲けるためには勉強よ! ムハハ」
そう言ってラムメェは笑った。
「勉強か……」
「そう。それで馬車の中に1週間分の食料と寝具とかを積んで有るから。直ぐにでも出発出来るよ」
「ありがとう……」
ペコルがお礼を言うが声が小さい。
「お礼はいいよ。それで料金なんだけど……」
ラムメェがそう言って一枚の紙を出す。そこにはとんでもない金額が書かれていた。
「「高!」」
紙に書かれた金額を見たペコルとフリザの声が揃う。
「適正価格だけど? ムハハ」
ラムメェは悪い顔で笑う。
「ちょっと手持ちにお金が無くて……」
「心配要らないよ。フリザだよね? 聞いてるよ。凄い氷魔法があるんでしょ?」
『知ってた!』
私がそう思って隣を見るとペコルとフリザも私と同じ顔で同じ様に思っている様だった。
「この馬車なら氷魔法で造った馬車の荷台2つ分かな? それかこの町の倉庫の1つにあの氷魔法を使ってもらうか。どっちがいい? ちなみに馬車の中の食料と寝具はサービスだから。ムハハハハ」




