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異世界に生まれ変わるなら猫  作者: りづ
3章 聖人ミカの想い
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交換条件


朝食の後、私だけがミカの住む屋敷に案内される。

ペコルは護衛だから一緒に着いて行くと言ったが叶わず、フリザも同じ理由で居残り、キャノはミカに面会の申し込みをして回答待ちで大人しくしている。


案内したのはカリナ。だがカリナも屋敷の扉の前までしか着いて来なかった。

「ここからはリン1人でぇ。この屋敷にはミカ様以外誰も入れないのぉ」

そう言い残して昨日宿泊していた屋敷に戻って行った。


トントン

私は横開きの玄関の扉をノックする。

「はい」

ミカが玄関まで出て来て扉を開けた。

ミカの住む屋敷は昨日泊まった屋敷とそれほど変わらない純日本風。私は家の中を観察する様にキョロキョロ見てしまう。


「珍しい?」

「……実際に見るのは初めて」

「日本にいる時は?」

「…………」

「隠さなくても大丈夫、もうアナタがこの世界に生まれる前の記憶があるって知っているから」

「…………」

「聞いたわよ。お箸を上手に使っていたってね」

「…………」

「別に何かしようって訳じゃないの。私はルシと話がしたいだけ。私がルシを殺そうとした訳じゃ無いって説明したいの。姉に誤解されたままなのが嫌なのよ」

「私はルシの生まれ変わりじゃ無い」

「そうかもしれない。でも可能性は有るでしょ? 記憶が無いって事もある。特にルシの能力を考えれば」

「ルシの能力?」

「…………」

今度はミカが黙ってしまう。

「交換条件ってのはどう?」

「交換条件?」

「私がルシの生まれ変わりを捜してあげる」

「アナタが捜す?」

「うん。私の能力で」

「アナタの能力……」

ミカは私の目をジッと見た。

「…………」

「…………」

私もそのミカの目をジッと見返す。




どれだけ時間が流れたのだろう。

「アナタはルシでは無いようね」

「違うって言ったでしょ」

「……でも前の世界の記憶がある」

「私が使徒だからなんじゃない?」

「……それも違う気がする。アナタは使徒でも無い」

「私が使徒じゃ無い?」

「確かに使徒と似た感じもする。でもこれは使徒とは違う。これは……なるほどね。使徒じゃ無いのに使徒に似た感覚。私も知ってる感覚……」

「使徒じゃ無いけど知ってる感覚?」

「そう、アナタは使徒じゃ無く使徒の絵本」

「絵本?」

「そうアナタは新たな使徒の絵本」

「私が絵本? 私のどこが絵本なの?」

「フフフ。使徒の絵本って言うのは比喩的な表現。全ての使徒が絵本を持つ訳じゃないの。例えば最初の使徒は石板だったと言われているわ」

「じゃあ何で絵本って呼ばれてるの?」

「獣人族の……絵本の国を創った使徒が持っていたのが絵本だったから。私とルシの絵本は普通の本だしね」

「確かに絵本って言うより本って感じ……」

私はそう言いかけて口を閉じる。

「やっぱりアナタは何か知ってるのね」

「……絵本だから知ってる? ……みたいな?」

「苦しい言い訳ね……まあ良いわ。複製!」

そう言うとミカは私に掌を向ける。

「何をしたの!」

「無理だったみたい」

「だから何をしたのよ!」

「私の能力。複製を使って失敗したのよ」

「複製……? 失敗?」

「そう。アナタが絵本なら複製が出来るかもって思ったの。でも出来なかった」

「複製の能力はミカだけのもの? それともルシも使える?」

「ルシはまた違う能力……絵本なら知ってるでしょ?」

「勿論。ルシの能力は加速と減速……だよね?」

ミカの目が笑っている様に見えた。

「そうかもね。フフフ」

「違うの?」

「違わないわよ?」

「それなら何で笑った?」

「それは…………教えない」

「どうして!」

「それは本人に聞いたら? 多分アナタはルシの居場所に心当たりがあるんでしょ?」

「…………」

「フフフ。また黙っちゃった。正直者ねアナタは。それなら交換条件。ルシに会えたら伝えて『私は仲直りがしたい』と」

「伝えてどうするの? ルシはミカを信用するのかな? ルシはミカが自分を殺そうとした真犯人だと思っているんじゃない?」

「だからその誤解を解くために伝言を頼むのよ。アナタにも説明したでしょ。あの時の事はミールが私の考えを忖度して行き過ぎた行動を取っただけ。私は昔から争い事が嫌いだってルシなら知ってるはず」

「分かったわ。伝える『ミカが仲直りしたがってる』って『ルシを殺したのはミールでそれもミカの事を思っての行き過ぎた行動だった』って。それで良い?」

「ええ、良いわ。交換条件成立ね」

「交換条件成立。それじゃ帰して。国境の町で待ってる人がいるの」

「分かったわ。カリナに飛行艇で送らせる」

「うん……それと余計なお世話だと思うけどカリナを解放してあげたら?」

「解放?」

「生まれる前の祖先の罪で言う事を聞かせてるのは違わない?」

「別に私は何か強制してる訳じゃないのよ? あれはミールの子孫達が勝手にしている事。ミールの子孫らしいと言えばらしいけどね。また私の考えとは違う事を勝手に想像してるのよ」

「それならそう言ってあげたら良いのに……」

「そうかもね。でも私の考えとは違うけど、それはそれで私の理想に近い世界になりそうだから放っておくわ」

「酷くない?」

「そうかしら? 誰でも自分の理想の社会があると思うけど? それは私達をこの世界に喚んだ神様にもね」

「私達を喚んだ神様……」

「はい! 話は終わり!」

私はそう言われて何か不思議な力で屋敷を追い出された。


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