異世界で日本?
カリナに案内された部屋はこの世界に来て初めての日本風な部屋だった。
『やっぱりミカも日本人だったんだ。リャルルは日本の事を殆ど覚えてないって話だけどミカはどうなんだろう?』
そう考えつつ私は疲れからか、その日は布団に横になると直ぐ眠ってしまった。
翌日、目を覚ました私の耳に最初に入ってきたのはペコルの声だった。
「私はこの屋敷から出られない! 何で!」
「ミカ様の命令ですからぁ」
「じゃあ、そのミカに会わせろ!」
「それも出来ないのぉ。ミカ様は命を狙われているからぁ」
「私はリンを連れて国境の町に帰りたいの!」
「まあまあ落ち着いてペコル。ミカ様は多分リンは魔王様の生まれ変わりじゃ無いって昨日言ってたでしょ? だからそれがキチンと証明出来れば直ぐに帰れるって」
3人の言い争う様な声が聞こえている。
『昨日から魔王ルシの生まれ変わりがどうとか聞くけど、ミカは何で魔王ルシが生きてるって確信みたいなのがあるんだろう? 確かにルシはリャルルとして生まれ変わっているけど、それならもっと早く捜せなかったのかな? 何で今になって魔王ルシの生まれ変わりを捜してるんだろう?』
コンコン
「リン、そろそろ起きた?」
私の寝ている部屋に入って来たのはキャノだった。
「うん……起きてるけど、キャノって返事をする前に入ってくるよね。前の……最初に会った時も勝手に馬車に上がり込んでたし」
「そうだった……か。でもそのお陰で聖人様に会えたんだからあの時の私は正解だった?」
「……正解ね」
「リン、起きたなら朝食食べるよね? 大風の屋敷でご飯食べてから何も食べてなかったからお腹空いてない? 私はもうペコペコなんだけど」
「確かにお腹空いた」
「じゃあ行こう! 珍しい料理なんだよ!」
そう言ってキャノが私の手を引く。
「お米?」
食卓に並べられた料理の中で最初に私の目に止まったのは茶碗に盛り付けられたご飯だった。
「初めて見るでしょ?」
「え? うん……そうかな……」
そう言葉を濁す答えをしたが食卓に並んでいたのは旅館で出る様な朝食だった。前世では小さい頃から入退院を繰り返していたので旅館に泊まった事は無かったが、それでもネットやドラマで見た事がある。
『こんな所で日本を感じれるとは思わなかった』
そう思いつつ私は座布団に座る。
「なんか田舎の家みたいだね。私、田舎って無かったから……」
思わずそう口にしてしまう。
「田舎?」
『しまった!』
「田舎って?」
「いや……その……あっそうそう、私のお母さんは魔族と人族のハーフだったからエリオットに会うまで他の人の家に泊まった事無かったんだよね。お父さんも実家の家族とあまり仲良く無かったみたいだし……お父さんの田舎にも行った事無いんだ」
『なんとか誤魔化せたか?』
「そうなんだ。田舎って猫族の家ではこんなに感じのご飯が出るの?」
「ええと……よく分かんないけど、多分田舎ってこんなに感じかなって思っただけ……」
「猫族の里だってこんな料理は無いだろ」
ペコルが立ったまま焼き魚を手で摘まんで口に運ぶ。
「リンの様にそのクッションの上に座って食べなさいよぉ。行儀が悪いわよぉ。それと手で食べないでそこにある箸を使うのぉ」
「この棒?」
「そうよぉ。使えないようならフォークを出すけどぉ」
ペコルは箸を持ってはみるが上手く使えない様だ。
「フォークで!」
「はい。用意してあるわぁ」
「それなら最初から置いておいてくれたら良いのに……」
「フフフゥ。リンは……箸使えるのねぇ」
私はお腹が空き過ぎていて普通に箸で焼き魚を食べ、ご飯を食べ味噌汁を飲んでいた。
「…………」
カリナにそう言われて私は手を止める。
「ミカ様の言った通りねぇ。箸が使える様なら魔王ルシの生まれ変わりの可能性があるってぇ」
「…………」
「この箸ってのはリンが魔王ルシ様の生まれ変わりか確かめるために置いてあったの?」
「そうよぉ」
フリザの言葉にカリナが嬉しそうに答える。
「でもリンは魔王ルシの生まれ変わりじゃ無いだろうってミカ様は言ってたんじゃなかった?」
「それはぁ……この子が魔王ルシの生まれ変わりだって事を隠しているだけぇ……って事ぉ」
「やっぱりリンは魔王の!」
飛行艇の時の様にキャノが腰に手をやったが、そこにはいつもの大剣が無い。
「止めなさいよ。リンは魔王様の生まれ変わりじゃ無いわよ。でも使徒様。新しい使徒様なだけ。だから何でも知ってるのよ。絵本に書かれてるんでしょ?」
「うん……そうだよ。ハハハハ」
私は笑って誤魔化す。




