地下空間
私達が連れて行かれたのは長い階段を下りた先の扉。そこから緑色の髪で透明感とも違う透けているような肌をした女性が姿を現す。
「待ってました」
『彼女がミカ? 母リャルルの前世魔王と呼ばれた使徒ルシの双子で聖人と呼ばれていた人族の守護使徒のミカ』
その人目を引く姿でカリナが私を連れ去った本当の依頼主が誰か分かる。
「黒猫族のこの私に何の用ですか?」
「フフ。2歳と聞いていたのにしっかり者ね」
「私は獣人族の血も流れているので成長は人族に比べて早いと思いますよ」
「そうなのかもね。でも獣人族の成長が早くても魔法を使いこなす者はいないでしょ? 魔族にも2歳でそこまで魔法を使いこなす者はいないもの」
「私の魔法の事はどこで?」
「私には沢山の目と耳があるのよ」
「目と耳が沢山!」
私はミカの言葉に驚く。
「沢山って私の目や耳が10個も20個もある訳じゃないからね。私に情報をくれる人達の目や耳があるって意味だよ」
「う、うん。分かってるよ」
そう言ったが本物の使徒であるミカは本当に沢山の目を持っている可能性もあるとも思っていた。
「では私の家へと案内するね」
ミカはそう言うと更に洞窟の奥へと階段を下りていく。
そこは地下とは思えないくらい明るくとても広い空間だった。
「うわー……ここは……地下だったはず……」
ペコルがその明るさに驚いた様に溜息交じりの声を上げる。
「流石聖人様です」
キャノが憧れの人を見る目でミカの姿を目で追う。
「これは竜族の洞窟と同じ……」
フリザが光る壁に手を当てる。
「私の仕事はこれで終わりで良いのぉ?」
「ええ。良いですよカリナ」
「ではミールの罪もこれでぇ……」
「それはどうでしょう? 確かにルシの生まれ変わりと噂の少女を連れては来てくれましたが、この子がルシの生まれ変わりだと決まった訳ではありませんよ?」
「そんなぁ」
「それほどミールの罪は重いと言う事です」
「…………」
「ねえ、ミールの罪って何?」
ペコルが落ち込んでいるカリナを無視する様に隣のフリザに聞く。
「私も詳しくは……ミールとは勇者ミール事だと思いますが」
「勇者ミールって何をした人? 勇者って呼ばれるくらいだから魔王でも倒したの?」
「そうよ。ミールは魔王ルシを倒した勇者。私の祖先カールと対をなす人族の伝説」
キャノが何故か誇らしげに答えた。
「確かに魔王ルシを倒した勇者ですねミールは」
ミカがキャノの言葉に肯く。
「それならミールの罪って何?」
ペコルが今度は直接ミカに聞く。
「ミールの罪はルシを殺した事」
「魔王を殺すと罪になるの?」
「人殺しはいけません。まあルシは使徒なので使徒殺しですけどね」
「でも悪い使徒だったんでしょ?」
「悪い……それは誰にとってですか?」
「誰に?」
「確かにルシは人族や獣人族にとっては悪い使徒なのかもしれませんね。ですが魔族からみればどうでしょう? ルシは魔王として魔族を守っていただけとも言えませんか?」
「それは魔族が悪いから、その魔族を守っていた魔王ルシも悪い使徒なんじゃないの?」
「獣人族の、兎族のアナタから見るとそう映るのですね。ですが魔族が悪いと言うなら獣人族はもっと悪いのでは?」
「どうして?」
「何故、魔族と獣人族が戦っていたか知っていますか?」
「それは魔族が私達の住む白山領に攻めて来たから?」
「獣人族側から見ればそうなのですね。ですが魔族や人族からみれば違います。人族と魔族は獣人族に迫害されていました。それを私とルシの2人で止めるためにこの大地ルシミカを創ったのです。そして迫害されていた人族と魔族、それと亜人の一部が移り住んだのです。ですから魔族から見れば獣人族が悪いと言えます」
「…………」
ペコルはミカの話を聞き黙って何かを考えている。
「私の祖先英雄カールはあの町に暮らし、あの町で獣人族の侵入を止めていた。だから今もカールの末裔の私はあの町に住んでいるの」
「まあその話はまたとして、みんな疲れたでしょう。今日は休んで……リンだったわね。明日、アナタがルシの生まれ変わりか確かめる」
「私はルシの生まれ変わりじゃ無い!」
「そうでしょうね。私の姉とは思えないもの。話し方も行動も……カリナ、お客様を今日の宿に案内してあげて」
「私の仕事は終わったのでは?」
「そうね。だから次の仕事よ」
「……はい」
カリナの返事を聞いたミカはこの広い空間の中の中心の一番に大きな屋敷に入っていった。
「付いて来て……今日泊まる屋敷に案内するわ」
カリナはそう言うと地上へ続く階段に一番近くの屋敷向かう。
「ねぇ。カリナの話し方普通になってない? いつもの変な語尾じゃ無いよ」
私はペコルとフリザにそう言ったが、2人は私の言葉に答えてはくれなかった。
ペコルはミカの話から黙ったまま考え込んでいて、フリザもこの地下空間に思う事があるみたいに考え込んでいる。
キャノは相変わらずミカの後ろ姿を羨望の眼差しで見つめていた。




