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キャノ


『私はずっとこのまま町で……』

私は英雄と呼ばれたカールの子孫として生まれた。


「この町で獣人族から人族を守るのよ」

小さな頃から言われ続けた言葉。

でも、獣人族との争いは私の生まれる遙か前に終わっていた。今もいくつかの小さな諍いはあるが、騎士団が表だって戦うものでは無い。

今の戦いは情報戦。脳筋と呼ばれる私は無力感に悩まされている。

最近の私の仕事は魔物退治。それもこの町周辺は殆ど魔物が駆逐されている為に出番もほぼ無いのも現実。なので高魅領主から頼まれて、たまに町から離れた街道に出没する魔物を狩るだけ。

魔貴族の頼まれ仕事と言うのもなんとなく納得いかない。

『私は人族の英雄カールの末裔なのに!』

と心の中で叫ぶ。




最近よく耳にする噂。

『獣人族の国で暮らす魔族の女性リャルルに黒猫族との子供が生まれた。その子が1歳前で魔法を使った』

リャルルは前から気になっていた人物。

魔貴族の大風エリオットと人族のメイドの間に生まれた女性で、この国境の町もある絵本の国側の白山領で領主付きの秘書兼護衛をしている。

私は少し憧れていた。その人に子供が生まれた。それも優秀な。

『私もここでは無いどこか別の町なら……恋人が欲しいとまでは言わない。仲間……友達……一緒にいて心から楽しいと思える誰か……』

この国境の町でキャノは孤独だった。優秀な2人の兄。3番目に生まれた末っ子のキャノ。

父母は優しかった。だが、成人して騎士団を1つ任されてから孤独な日々は始まる。

父親が国境の町の魔人国ルシミカ側の責任者『大将軍』になり、私は刷新された騎士団で青銅騎士団の団長の職に就く。

これは何百年も続く伝統でもあり、不文律でもある掟。

その昔、大将軍の英雄カールが決めた『自分の子供達にそれぞれ騎士団を作らせ、一番優秀な者を次の大将軍にする』と言った事から始まった掟。

今の私の青銅騎士団に団員はいない。それは成人したばかりで団長になったために元々騎士としての実績が無かった事と2人の兄が優秀だった事。


上の兄は何でもそつなくこなす。魔物退治でも団員に指示を出しつつ先頭に立って自分でも戦う『俺に付いて来い!』指揮官タイプの騎士団長。


下の兄は頭脳型。魔物退治では後方に控え、銃で魔物を狙いつつ団員に指示を出す『俺の指示通り動けば上手くいく!』軍師タイプの騎士団長。


私はと言うと戦略とか戦術とかよく分からない『魔物を全て倒せば良いんでしょ!』周りからは脳筋タイプの騎士団長と呼ばれている。

最初は父上の選んでくれた団員が何人かいたのだが、私が1人で魔物の群れに突っ込み大剣を振り回し銃を乱射する姿に一人また一人と兄達の騎士団へと移籍していってしまったのだ。騎士団員の収入は町や依頼主の魅高領からの討伐依頼料と魔物を倒した数に応じてもらえる成果報酬と魔物の素材を売って出る収益で決まる。私の青銅騎士団は私一人で魔物を倒してしまうため団員に成果報酬がなかなか入らない。それと私の魔物の倒し方が雑なのもあり魔物の素材の売値が低い。そうなると団員の収入は基本給だけに近い額になってしまう。

兄達の騎士団の団員達が結婚したり装備を新調したりする中、私の団員達には生活費くらいしか与えられていなかった。

元々女騎士団長の私には偏見もある。『実力不足』『お遊び騎士団』『アイドル騎士団』陰でそう呼ばれている事も知っている。


団員が辞めて一人になって魔物退治の依頼も減り、私は兄達の騎士団に助っ人と言う形で参加させてもらっている。

兄達は『可愛い妹の頼みだから』と参加を許してくれていたが、団員達からは『1人で勝手な行動をしたり雑な魔物の倒し方をしたりする』と煙たがられていて頼み辛くなっていた。

なので最近は白獅子族の獣人族の知り合いに頼んで冒険者を雇って魔物退治の依頼を受けているものの、それには人族の中から冷たい目を向けられている。


そんなある日。次の魔物退治の依頼の相談を白獅子族の冒険者として彼女と獅子族側の町を歩いていると一台の馬車が私の目に止まった。

『あの馬車……エルフが乗ってる。それに兎族……その隣のあの子は?』

私は兎族の隣に座る黒猫族とも少し違う姿の子供から目が離せなくなっていた。


兎族の冒険者は白獅子族の冒険者の知人だったらしく2人は挨拶を交わしている。私は少し離れた場所から奇妙な黒猫族の少女を見ていた。

『もしかしてあの子、噂のリャルルさんの子供?』

憧れのリャルルが黒猫族との子供を産んだと思い出す。


ガシャン

「ねぇ、私、置いてけぼりなんだけど? 私も紹介してよ!」

私はあの少女と話したくて白獅子族の知り合いに体当たりをしてしまっていた。


それが私の運命を変える出来事だったのだとこの時の私はまだ知らない。



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