連れて来られた場所
「ねえ、リンって魔王の生まれ変わりなの?」
怖い目で私を見るキャノ。
「魔王?」
「魔王くらい知ってるでしょ。惚けても無駄……惚けるって事は……何か怪しい」
「怪しくないよ。魔王って言われてもよく分からないだけ。しかもその生まれ変わりなんて言われてもね?」
私は助けを求める様にペコルとフリザの方を向く。
「私は魔王が何者なのか詳しくないからな……そもそも魔王って魔族の味方とかでしょ? 半分獣人のリンがその魔王の生まれ変わりってあり得る?」
ペコルの答えにフリザが首を傾げる。
「リンの魔法を考えると魔王の生まれ変わりってのも強ち間違いとも思えないかも」
「リンの魔法?」
「死者を生き返らせる魔法」
「死者を生き返らせる!」
フリザの言葉にキャノが驚く。
「余計な……」
「フリザはリンの護衛でしょ! 口が軽すぎ!」
「勿論、私はリンの護衛よ。でもただの使徒様の護衛と魔王様の護衛では全然違う。魔王様の護衛なら獣人族のペコルは不適任。これからのリンの護衛は私……」
「ふざけないで!」
ガキン!
ペコルがフリザに怒鳴るその横でキャノが腰の大剣を抜いて上段に構え様として天井に剣先を打つける。
天井と剣先がぶっかる音でペコルとフリザが我に返り私を後ろに庇うとペコルは双剣を構えフリザは魔力を高める。
「残念。多分魔王じゃないみたいねぇ」
氷の壁の向こうから声がした。
「何で魔王じゃないと分かる?」
「魔王の魔法に死者蘇生なんて聞いた事も無いものぉ」
「アナタが魔王の何を知っているの!」
キャノが長い剣はこの狭い空間では不利だと気付き剣の柄から手を離し素手でファイティングポーズの様な構えをする。
「私では正確な判断が出来ないけど、聖人様ならその子が魔王の生まれ変わりか判断してくれるでしょぅ」
「聖人様!」
「そうぅ。もう直ぐぅ聖人様の隠れ家よぉ」
そう言うとカリナは飛行艇の高度を下げ始めた。
「何で魔族のアナタが聖人様の隠れ家を……」
「ふふぅ。私がいつ魔族だなんて言ったかしらぁ?」
「魔族じゃないの?」
私は思わずそう口にしてしまう。
ペコルもフリザも私の言葉に納得するように頷く。
「魔族の高魅の血が流れているけどぉ、私はミールの末裔ぃでもある。私達ミールの末裔は魔族の力を弱めるために四大魔貴族と三高魔貴族の血筋に人族の血を混ぜようと何年も何十年も何百年も活動しているのよぉ」
「言ってる意味がよく分からないけど……」
キャノの言葉と私達3人も同じ気持ちだった。
「もう直ぐ着くからぁ、聖人様に直接聞いたらぁ」
「聖人様に会える……」
キャノはどこか興奮気味に呟いた。
☆約時間後。
カリナの操縦する飛行艇は砂漠地帯と鉱山地帯の中間くらいにある洞窟の1つの前に降りたった。
「降りてぇ。この先で聖人様が待っているわぁ」
カリナは飛行艇の扉を開けると私達を外に出し洞窟を指差す。
「この先に聖人様が……」
キャノは嬉しそうに1人先にその洞窟の中へと駆け出して行ってしまう。
「3人もぉ……」
「「…………」」
「聖人様に会える……」
カリナの言葉に私とペコルは無言でお互いに顔を見合わせた。フリザはどこか聖人に会いたい様な雰囲気を出している。
「ここは町からも街道からも離れているわぁ。食料も地図も無いのにぃ3人で逃げても無駄よぉ。大人しく聖人様に会った方が良いと思うけどぉ。聖人様はリンを殺したりしないわよぉ。仮にリンが魔王だとしてもねぇ」
「何でそう言い切れる!」
ペコルはずっと私を守ろうとしている。
「聖人様は誰かを殺すのが嫌な方ぁ……私の祖先のミールが魔王を殺した時もぉ……誰よりも悲しまれていたわぁ」
「確かに聖人ミカは魔王ルシの死を知って姿を隠したと言われている。それに私達3人だけじゃここから生きて国境までたどり着けない。ここはカリナの言葉に従うしかないわ」
「フリザ……」
「フリザ! アンタは聖人ミカに会って、その魔法が見られたらラッキーくらいに思ってるんじゃないでしょうね!」
「そ、そんな事無いけど! 私達には選択肢が無いと思うだけよ……」
「……まあいいわ。選択肢が無いのは確かだし、カリナの言う通り聖人ミカに会うしかないわね。リンもそれで良い?」
「うん」
私はペコルに頷く。
洞窟の中は長い階段状になっていて地下へ地下へと降りて行く。
どのくらい歩いたのだろう。目の前に大きな門とその横に2人の男が入口を守る様に立っていた。
それと門の前に佇むキャノ。
「遅いよ! カリナがいないと通さないって言われて……何分待ったか!」
「1人で走って行くからぁ。まあいいわぁ。この子が魔王の生まれ変わりと噂の子よぉ。聖人様に会わせるために連れて来たわぁ。通してぇ?」
2人の男達は頷くと重そうな門を押す。
ギギギギ……
軋む様な音と共に門が開き奥の通路が見えた。
『まだ歩くの?』
私がそう思っていると澄んだ女性の声がした。
「待っていましたよ」
そこには1人の小柄な女性が立っていた。




