招待
私とリャルルの噂が魔族の国まで届いているのかと私は驚く。
「その噂も行商人を通じて?」
「うん、そうだ。大体の絵本の国の情報は魅高の町の行商人から伝わる」
「魅高の町?」
「うん。魅高の町は絵本の国との国境の町にある町で三高魔貴族の高魅の領都。ここ風大領から一番遠い町だな」
「もしかしてカリナもその町の人?」
「そうだと思うが……魅了の魔法が得意と聞くからな」
「カリナって魅了の魔法が得意なの!」
「そうだよ。だから彼女にリンとリャルルを連れて来てもらうように頼んだんだ。もしも抵抗されても魅了魔法なら傷付けないだろ?」
「だから……眠ってしまった?」
「眠りの魔法ならケガもなくて良かったでしょ?」
「…………」
エリオットにそう言われたがなんとなく納得いかない。
コンコン
部屋のドアがノックされる。
「はい」
エリオットの返事を待ってカリナが顔を見せる。
「失礼しますぅ。今日リンをこの後どうするつもりですかぁ?」
「この屋敷に住んでもらうつもりだけれど?」
「それはリンも納得していますかぁ?」
エリオットとカリナが私を見る。
「リンどうしたい?」
「まだ分からない。一度お母さんやお父さんとも話さないと……それに私が魔族の家を継ぐのって良いのかな?」
「僕は構わないと思っているが?」
「魔族社会では反対されたりしない?」
「最初は何か言ってくる者もいるだろうが、平気だろう。他にも人族との子供に跡を継がせた者もいるから。先ほど話しただろ? 最近は魔族と人族の子供がいると」
「……それって……」
カリナの存在を意識して私は言葉を噤む。
『行商人から私の事を聞いたとか、魔貴族の当主の中で人族に襲われたりしてハーフの子供が生まれているとか、その子以外の子供が不自然に死んでるとか……怪しいよね? 行商人もだけど魔貴族の当主が襲われたってのも気になる。エリオットもリャルルの母親の人族に襲われた時に魔法を封じられたって言ってた……魔法を封じるって魅了の魔法の可能性もある? 行商人なら魔道具を扱うかもしれないし、魅高の町ならそんな魔道具があってもおかしくない。その魅高の町出身とカリナは信用出来るのか? そもそも人を攫ったりしてるんだよ! 信用出来なくて当然。 エリオットは何でそんなにカリナを信用してるんだろう?』
「リン? リン! 聞こえているかい? リン?」
私はまたいつもの悪い癖考えで事をしていて周りを完全に無視していたようだ。
「ごめん、考え事中だった。やっぱり一度国境の町に帰りたい」
「そうか……分かった。無理矢理な形で連れて来てしまって申し訳ない。次は正式に僕の屋敷に招待したい。その時はリャルルとリンのお父さんも一緒に」
「うん。それなら弟もね」
「弟? 弟もいるのかい?」
「うん。まだ1歳にもならないけど。ダルって弟がいる」
「そうか……それなら正式に四人を招待しよう!」
この夜。そうして私はカリナの飛行艇に乗った。
☆約数日前。
「よう! ペコル!」
腰に銃のホルスターを着けた白獅子族の女性が片手を上げる。
「ピオネ久しぶり!」
「おう! で? 珍しい組み合わせの連れだな」
「うん、まあね。今はこの子の護衛中」
「ふうーん……黒猫族……でもない……あっああ! 噂のリャルル様の?」
「うん。リャルルの娘のリン」
「それでそっちのもう1人は? エルフみたいだけど……」
「私はフリザ! 不裏氷フリザ。 冒険者で今はリンの護衛よ!」
「そうか。護衛が2人とはなかなかの重要人物なのだな」
ピオネはそう言うと私に顔を近付け観察する様に見てくる。
「それ以上近付かないで!」
フリザが私と前に入ってピオネを引き離す。
ガシャン
「ねぇ、私、置いてけぼりなんだけど? 私も紹介してよ!」
少し離れた所で私達の遣り取りを見ていたキャノだと思われる青銅色の鎧に身を包んだ人族らしき女性がピオネに体当たりした。
「おいおい。お前の体当たりはダメージになる!」
そう言ってよろけた体勢を立て直すピオネ。
「紹介!」
地団駄を踏む様に足を鳴らしキャノがピオネを急かす。
「分かったよ……これがキャノ」
「……ってそれだけ?」
「ええと……この国境の町の騎士団の一つ青銅騎士団の団長」
「……まだあるでしょう? 大事な!」
「ああもう面倒くさい……人族の守護使徒様の聖人ミカ様の一番弟子で人族の国ミカの守護者カールの末裔……長いんだよ」
最初と最後の言葉は小さく呟くピオネ。
「そう! 私があの伝説の人族の守護使徒様『聖人ミカ様』の一番弟子で人族の国『ミカ』の守護者カール大将軍の末裔……キャノよ!」
キャノは自分の名前の前に少し溜を作り自己紹介して鎧を着ていても分かるくらいの大きな胸を堂々と張る。
「……リンです」
私はキャノの自己紹介に圧倒されつつ名前を口にする。
「うん。リン、私の家に招待する!」
「え?」
『??? 何で? 突然?』
キャノの言葉に私達の頭にははてなマークが 浮かんでいた。




