噂の人
私はエリオットにリャルルとリッピナのした事を話そうかどうしようか悩んでいた。
「リン？」
「私を、リャルルの娘の私をその魔力の後継者に本当にするつもり？」
「そうだな。……リンはお母さんの事をリャルルと呼んでいるのかい？」
「え？ 今それ……関係ある？」
「いや、気になってたから。リンから見てお母さんはリャルルはどんな人？ 優しいかな？ 厳しいかな？ 変わってるかな？」
「そうだね。優しいけど厳しさもあり、才能のある……変わってる人かな。特に獣人族の国にいたから周りの人達とは間違いなく違った」
「そうだろうね。獣人族から見ると魔族の姿や能力は違って見えるだろうな」
「何でお母さんは命を狙われたの？」
私は少し惚けて聞いてみる。
「そうだな……子供達に魔法か呪いを掛けたからかな。特に母親だったアネットには許せなかったんだろうな」
「それはお母さんが魔法を掛けたって間違いないの？」
「何とも言えん。リッピナだったのかもしれん、リッピナは魔道具を使っていたからな」
「魔道具？」
「そうだ、僕が襲われた夜も魔道具を使われて魔法が使えず幻惑にも掛かった。人族のリッピナに魔法が使えたとは思えない、だから魔道具を持ってたのだと思う。それに今の四大魔貴族や三高魔貴族も人族との子供がいる者が多い。噂によると魔道具を使った人族に襲われて子供が出来ていて、その子を跡継ぎにするかの様に正妻の子供に不慮の事故が多発しているそうだ」
「それって誰かの思惑で？ 誰かが裏で糸を引いている？」
「僕はそう考えている。だからリャルルを連れて来て欲しいとカリナに依頼したのだが……」
「そうだ、そのカリナって何者？」
私はずっと気に掛かっていたカリナについて聞く。
「カリナは運び屋。飛行艇で荷物や人を届けたりするのが仕事だそうだ」
「どんな人かは知ってる？」
「詳しくは……紹介されただけだからな……」
「誰に紹介されたの？」
「誰に？ あれは確か行商人に……」
「行商人？」
「そうだよ。その行商人にリャルルやリンの話を聞いて……」
「待って！ 私やお母さんの話？ 私達の事が何で魔族の国に？」
「リャルルは魔貴族の中では有名だぞ。魔族なのに獣人族の国で領主に仕えているのは珍しいからな」
「そう……それで私は？」
「リンはリャルルが産んだ子供だからと言うのもあるが生まれて直ぐに魔法を使ったとか言葉を話したとか天才だと噂が僕にも届いていた。そして2人が風魔法が得意と言う噂も……」
☆約数日前。
「それじゃお父さんとお母さんは今日の宿を探して来るよ。3人はここら辺で馬車を見てて」
そう言ってダルを抱いてダンがリャルルを連れて馬車を降りて歩いて行く。
残された私とペコル、フリザは国境の町を囲む高い魔物除けの壁の一画に造られた門の入口から少し入った場所に馬車を停めて町の様子を眺めていた。
「ねえ、この道の先の壁と門は何？」
私は町の入口の門から真っ直ぐに伸びた道の先にある外周を囲む壁よりかなり低い壁と門を指差す。
「あれが本当の国境の壁と2つの国を唯一行き来出来る門だよ」
フリザが教えてくれた。
「ペコルはあの門から先に行った事はあるの？」
「無い」
ペコルは周りをキョロキョロしながら短く答える。
「ペコル？ 何か気になってるの？」
「いや、知り合いを捜しているだけだ」
「知り合い？」
「うん。白獅子の里で彼女はこの町にいると聞いたから」
白獅子の里は昨日までいた所で国境の町とは隣町にあたる。
「どんな人？」
「白獅子族の今の族長」
「女の人が族長なの？」
「そうだよ。先代の族長が領主選挙の半ばで毒殺されて残った子供の中で一番優秀だったピオネが族長を継いだんだ」
「ピオネってどんな人？」
「ピオネは……そうだな……新しい考える方をする人かな。普通の獣人族からはかなりかけ離れているかも」
「どんな風に？」
「例えば人族の武器を使うとか」
「人族の武器？」
「そう。銃って言う射撃武器を使うんだ」
「嘘！ 銃があるの！」
「リンは銃を知ってるのか？」
そう言いながらペコルはフリザの隣に移動する。
「知ってる。金属の弾を飛ばすんだよね」
「そう……」
「流石！ 使徒……」
またフリザが口を滑らせ掛けてペコルに口を押さえられる。
「言うと思った」
「ごめん」
「ペコルがフリザの隣に行ったのは口を押さえるためだったのか」
「そうですよ。フリザの言葉で何人かがこっちを振り返ったでしょ」
「この町はあの言葉に敏感なんですよ。特にあの門の向こう側ではね」
「何で？」
「この町には人族の守護聖人ミカ様の弟子の末裔がいるんだよ」
「聖人ミカ？」
「魔王と対をなす双子の……」
そう言いかけてペコルが手を振る。道の先の門の方から白獅子族の女性ともう1人人族の女性らしき人が歩いて来るのが見えた。
「あれがピオネ？」
「そうです」
「もう1人は？」
「あれがさっき話した聖人の弟子の末裔のキャノ。噂をすればだね」
