リャルルの姉と兄とその母
「まず始めに額に手を当てるよ……」
エリオットはそう言うと私の額に手を当てた。
「…………」
「…………良し、これで終わりだ」
「うん、それで私がもし秘密を誰かに話したらどうなるの?」
「それは出来ないから大丈夫。この魔法はこれから僕が話すある言葉をリンは口に出来ないと言う魔法だから。話そうとしても声にならない」
「そんな魔法があるんだね」
「風魔法の応用だよ。口から風が出なければ声も出ない、それだけと昔この屋敷に立ち寄られた魔王様がおっしゃっていた」
「魔王様? ルシの事?」
「……そうだ、ルシ様だ。ルシ様! 魔王様のお名前を呼び捨てなどしてはいけないよ」
「そうだね」
私は何となくエリオットに話を合わせた。
「それで秘密の話は?」
「僕達魔族の中でも四大貴族と呼ばれている大風、大火、大水、大土の4家と三高貴族と呼ばれている高雷、高魅、高毒の3家は歴代の当主の魔力を受け継いでいる」
「魔力を受け継ぐ?」
「そう。長い年月それぞれの一族によって高められた魔力、それが魔貴族と呼ばれる者達の強さの秘密」
「魔貴族の秘密。それを継ぐのが何故私?」
「この魔力を継ぐには一定の制限がある。それは子供か孫、それか兄弟姉妹だけ」
「子供か孫……だから私? 他に……エリオットの私のお母さんリャルル以外の子供は全員死んだの?」
「そうだ。病気なのか呪いなのか……それは分からないが、私の妻を含めた全員が長寿のはずの魔族の寿命が尽きて老化して死んだ」
「普通に寿命って事は無いよ……ね」
「あり得ない。皆私より若かったからな」
「お母さんは? 私のお母さんのリャルル」
「あぁ、あれはダメだ。あの魔法か呪いを掛けた犯人はリャルルかその母親のリッピナ……リッピナは人族だったから僕はリャルルが犯人の可能性が高いと思っている」
「何でリャルルがそんな事をする必要があるの?」
「先程説明しただろう? 僕の持つ大風の魔力を自分のモノにするためさ。僕が生きている間に魔力の後継者を決めずに死んだなら血族の一番近い者にその歴代の当主の魔力が自動的に受け継がれる」
「それが本当でリャルルが犯人ならエリオット、アナタは既に殺されてるんじゃない?」
「……そうかもしれない。だが分からない。リャルルの目的が魔力では無いのかもしれないから。リャルルの目的が復讐なら……」
「復讐?」
「そうだ。リャルルとリッピナの命を狙わせたのは私の妻のアネットだからだ」
「何で……浮気相手とその子供が憎かったの?」
「いや、リッピナが大風の魔力を乗っ取ろうとして僕を襲った……」
私の言葉にまたエリオットは赤くなってしまった。
『また赤くなっちゃたよ……どんだけ初心なんだよ! ……でもエリオットもその奥さんのアネットさんも知ってたんだ……』
☆約数日前。
リャルルの悩みが解決する事は無く魔族の国ルシとの国境の町に着いてしまう。
魔獣との遭遇は言われていた程無かった。それは最近武装商戦団コットンと白獅子族の新しい当主が協力して領都までの街道の魔物を駆除しているからだそうだ。
あの後も何度かリャルルと2人で話したが、リャルルが記憶を思い出す事は無かった。
そしてリャルルが記憶を思い出したくないと思っている理由の1つが前世だけで無くリャルルの母親リッピナにもあると言う事も聞かされた。
人族のメイドだったリッピナはある晩、雇い主であるリャルルの父親エリオットを襲った。そして妊娠、リャルルが生まれる。魔族はそもそも長寿のためか考え過ぎなのか性的な事に臆病だそうだ。
なので結婚して数百年のエリオットとアネットにも子供が2人だけ。それも貴族の家を継がせるためとしての子供。万が一1人の子供に何かあった時のために2人は子供を作るのが魔貴族の慣わしだったそう。
リッピナはそこに目を付け2人の子供を殺してリャルルに貴族の家を継がせたいと思ったとリャルルは語った。
子供にリッピナの生まれ変わったリャルルは最初リッピナの思惑を知らず『奥様に嫌がらせをされるの』『子供達のイタズラで風魔法て吹き飛ばされて怪我をした』『助けてリャルルお母さん、このままじゃ殺されてしまうわ!』赤ちゃんでまだ自由に動けなかったリャルルにリッピナはそう言い続けた。
ある日、姉と兄がリャルルに会いに来た。それは2人の姉兄が妹の顔を見に来ただけのものでリャルルにイタズラをしたりするものでは無かった。しかしリャルルはリッピナから聞いていた話を真に受け信じて『お母さんにイタズラして殺そうとしている。私にもイタズラして殺そうとしに来たんでしょ!』と思い込み魔法を掛けてしまう。使徒の加速の魔法。思わず使ってしまった加速の魔法。この時リャルルは自分が使徒の魔法を使えるのだと思い出したそうだ。
こうして姉と兄は原因不明の老化現象を発症してしまう。
最初はまだ子供の姉と兄の成長が速まって魔力も増えたと喜んでいたエリオット達も何かオカシイと気付く。そしてそれに最初に気付いたアネットがリャルルとリッピナの部屋を訪ねて来てリッピナを問い詰めた。
リャルルはその光景だけを見て思わず『お母さんが殺される!』と思いアネットにも加速の魔法を使ってしまった。
アネットに掛けた加速魔法は姉と兄に掛けたものより強く、みるみる内に老化が進行してしまう。
これがリャルルとその母が命を狙われた真相だとリャルルは語るのだった。
『私は母が死ぬ時までこの事を忘れていた。母が死ぬ時のあの嫌な笑顔を見て思い出して絶望した。私は姉と兄とその母を殺したのだと……アネットが老化していった時に見せたあのリッピナの笑顔……』




