2人だけで話す
大風家の屋敷に迎え入れられた私は大歓迎を受ける。
「ようこそ我が家へ。リン」
「はい……それで、跡継ぎとかって言葉を聞いた気がするんですけど私を無理矢理連れて来させた理由を聞かせて?」
「ああ、まず僕の自己紹介から。僕は大風エリオット。大風家の当主で今は大風家の唯一の生き残り」
「唯一の生き残り?」
「そうなのだ。何故か僕以外の家族は皆、病気に罹ってしまって……死んでしまってね」
「それは……」
「悲しいが病気なのだから仕方ない。だがここで一つ問題が起きてしまった。僕に跡継ぎがいない。このままでは大風家が途絶えてしまう。それはマズいのだ。大風家は魔族の中でも伝統ある四大魔族の家系。その魔法を継ぐ者が必要なのだ」
「それって養子とか弟子とかじゃダメなの?」
「それは出来ない」
「うーん……それならエリオットさんが再婚するとかして新しく子供を作るとかは?」
「…………」
何故かエリオットの顔が真っ赤になってしまう。
「リンさん、それを言うのは止めてあげてぇ。エリオット様が恥ずかしがっていますわぁ」
『エリオット……初心だった!』
「そうですよ。魔族の方にその様な話はね」
キャノがフリザに話を降る。
「そうだね。魔族にその話は……って言うよりリンは2歳で……知ってるの?」
「えっ?」
『そうだった! 私2歳だった! まあ前世でも12歳だったからそんな経験は無いんだけど。莉愛と少しそれっぽい話はして何となくは知ってる……獣人族の性事情や性教育がどうなってるか知らないけど、2歳が知ってるってのは早かったか!』
そんな事を考えていると私の頬も赤くなってしまった。
「リャルルさんは2歳の子に何を教えてるの!……あっ、それとも絵本? 絵本で知って……っ痛!」
フリザの脛がペコルによってまだ蹴られた。
「絵本? 絵本って何ですか? 獣人族の国にはそんな子供用の絵本があるんですか?」
キャノが絵本と聞いて違う方に勘違いをしてくれる。
カリナはそんな遣り取りをまた少し冷めた目で見ていた。
「んん、何故、養子じゃダメなんだ?」
話を変えようとペコルがエリオットに質問する。
「それは……家や四大貴族の身分ならそれでも良いが……それ以上は家族以外には話さない」
エリオットは私以外の人達を見て言う。
「それはリンには話せるって事?」
「僕の……大風家を継いでくれると言うなら」
「リン、どうする?」
ペコルの言葉にみんなの視線が私に集まる。
「ええと……その話を聞いてみないと家を継ぐなんて大事な決断なんて出来ない……」
「それもそうだ。エリオット、どうなんだ? リンになら家を継ぐのか決めるために話せるのか?」
「リンがこの秘密を誰にも漏らさないと魔法の契約で誓うのなら」
「どう?」
「分かった、秘密を守る魔法の契約をして話だけ聞く。家を継ぐかどうかはそれから」
こうして私とエリオットは2人だけで話す事になったもの
☆約一週間前。
あの日、『記憶……』と呟いて馬車に戻ってからのリャルルは様子がおかしい。常に何かを考えて悩んでいる様に見える。
「話聞こうか?」
私が何度か聞いたが
「いや、いい」「大丈夫」「気にしないで」
そんな答えが返ってくるばかりだった。
そしてたまに馬車から離れて一人になりに行く。
何度かそんな事が続いたので私がこっそり後を尾けると誰にも見られない様に『ブック』と唱え使徒の本を開いて白紙のページを捲っている。
普通だったら私の尾行なんて直ぐに気付くだろうに、全く周りが見えていない様だった。
『記憶って使徒の時の記憶? それともその前の日本での記憶? 冷蔵庫って言葉を聞いてからだから日本での記憶なのかな。でも冷蔵庫って言葉は思い出したんだよね?』
そんな事を考えていると振り返ったリャルルと目が合う。
「リン……」
「ごめん、心配で……」
「こっちこそごめんね。心配掛けて」
「何を悩んでるの? 記憶が変なの?」
「そうね。前にリンが言ってたわよね『使徒になる前の記憶はあるの?』って」
「うん」
「あの時は別に使徒の前の記憶が無くても良いかなって軽く考えてた。でもリンが言った『冷蔵庫』って言葉で、もしかしたら私の前の記憶が戻るか持って思ったの」
「それなら協力するよ? 記憶が戻る様に私が前の世界の話をもっとしてあげる! その内お母さんの思い出に重なる話が出て記憶が戻るかも」
「うん、そうかもね。でも……本当に記憶が戻った方が幸せかな? 前にリンのあのとき世界の話を少し聞いたけど……リンバック幸せだった? 小さい子供の時に病気で死んでしまって、その前もずっと病院にいたって……それって幸せだった?」
「幸せだったか……そうだね……うん、短い命だったけど幸せだったかな。優しい家族もいたし、大切な友達もいた」
「そう……凄く思い出したいの私も……でもダメない気がする。思い出しちゃダメな……辛い記憶な気がする。思い出せないけど辛かった気がするんだよ」
リャルルの目からは涙が流れていた。




