魔貴族の屋敷
「ここはどこ?」
何かしらの魔法を掛けて眠らせて飛行艇で私をここまで連れて来た紺色の軍服姿に赤の眼帯をした魔族に聞く。
「ここは大風の館ぁ。魔族の国ルシの四大貴族の1つ大風様の屋敷ですぅ」
「大風?」
「大風家は魔貴族の中でも元始の貴族の1つなのよ」
赤い眼帯の魔族の代わりに青銅鎧で金髪の騎士が答える。
「何でそんな魔族の家に連れて来たの?」
「大風の当主様に頼まれたのぉ。リンさん『アナタを連れて来るように』ってねぇ」
「大風家の当主と言うとスート様ですか?」
青緑色の軽装備のハーフエルフがある名前を口にする。
「そうですぅ。アナタはエルフなのに魔貴族に詳しいですねぇ」
「何で私達まで連れて来られたの?」
薄青の毛の兎獣人が聞いた。
「たまたま一緒にいたからぁ……かしらぁ?」
「たまたま……まあ逸れずにすんで良かったか……」
兎獣人は小さく呟く。
☆約1ヶ月前。
「リン、私の手を掴んで!」
ペコルが私の方へと手を伸ばす。
細い道でコットン商会の馬車が隣に並んだためにダンが操縦をミスし私達の乗る馬車が整備された道から外れて車体が大きく揺れる。私の体は思わぬ衝撃に浮かび上がり空中投げ出され天井にぶつかり落下していた。
「ニャッ!」
思わず私は変な声を上げてしまう。
「大丈夫か?」
馬車の床に叩きつけられる寸前で御者台から荷台に飛び込んだペコルが私を空中で抱き抱えて転がった。
「……うん」
ペコルの腕の中で頷く。
「ありがとうペコル!」
リャルルは風魔法で衝撃を弱めて、その腕でしっかりダルを抱いていた。
「危なかった……」
ダンは手綱を握ったまま馬を止め、何とか御者台の上で耐えていた。
「すいまへん」
シーメェが止めた馬車から降りてくる。
「危ないよ!」
ダダダ
大声を出したダンにシーメェの護衛と思われる男達が駆け寄って睨みを利かせて腰に差す剣に手をやる。
「落ち着いて」
ダンと護衛の男達の間にハーフエルフのフリザが入る。
「そう興奮しないで、馬車の操縦が下手でも気にせんとき」
「ハア?」
「シーメェさん、あまり相手を挑発するのは良くないですよ」
フリザがダンを怒らせる様な事を言ったシーメェをたしなめる。
「そうですか? ウチは悪く無いよね?」
「話がややこしくなるのでシーメェさんは馬車に戻って下さい」
「……分かりました。では私どもの依頼はこれで終わりでよろしい?」
「はい、ここまで馬車に乗せて来てくれてありがとうございます。依頼料は馬車に置いてある氷で……」
「へえ、それで。ほな、さいなら。またのご利用をお待ちしています」
そう言い残してシーメェは自分の馬車に乗り行ってしまう。
私達の馬車は少し道から外れた場所に止まっていた。
「フリザさん、置いて行かれたの?」
私は何となくそう聞いた。
「いいえ、私の目的地はここなので」
「ここ?」
回りを見渡すが特に変わった物の無い里から離れた道の途中。
「私の目的はリンさんと魔法話をする事です。だから目的地はここなのですよ」
「魔法の話?」
「そうです、私は新たな魔法を身に付けるために旅をしているのです。リンさんの魔法は私の知らない凄い魔法! 死んだ人を一時でも生き返らせるなんて信じられません! あの魔法は使徒様の魔法なのですか?」
「使徒様の魔法……」
『フリザに使徒と事を口止めした? してなかったんじゃない!』
「フリザさん、使徒の話はしないでもらえる? どこで誰に聞かれているか分からないのよ」
リャルルがフリザに注意してくれる。
「そうですね。すみません。使徒様を狙う者がどこにいるか分からないですからね。それで……魔法は……」
「リンはまだ2歳です。特別な魔法を使うには幼すぎるのよ。リンにもあの魔法の原理が分かっていないのです。あの魔法にどんな副反応があるかも分からないのですよ。ですからリンにはしばらく魔法の使用は禁止しているの」
「なるほどですね。分かりました! 私がこれからリン様が大人になるまでの護衛を務めさせていただきます!」
リャルルの話にフリザから明後日の方向の答えが返ってきた。
「護衛!」
「そうです! 護衛です! リン様が自由に魔法が使えるようになるまで私が護衛させていただきます!」
「護衛なんていらないよ」
私は大きく首を横に振る。
「そうです! 護衛なら私で間に合っています! 私は領主のターガツ様から護衛の任を受けてる! アナタは必要無い!」
「フフ、魔法も使えない獣人族が護衛など務まるはずが無い!」
ペコルとフリザは額がぶつかるくらいの距離で睨み合うのだった。




