新たな出会い
『ここはどこ? 何でこうなったんだろう……』
リンは魔族の国の外れにある大きな屋敷の前にいた。
傍にいるのは父母のリャルルやダンではなく、薄青毛の白兎族の冒険者と褐色のハーフエルフの冒険者、それと金髪で青銅色の鎧を着た人族の女騎士、紺色の軍服姿で右目に赤色の眼帯をした魔族らしき女性。
私と兎獣人、ハーフエルフと女騎士の4人は魔族らしき女性が操る飛行艇でこの場所まで連れて来られたのであった。
☆遡ること約1ヶ月前。
私達は馬車で領都を出発し当面の目的地の獅子の里を目指していた。
旅も2週間が過ぎようとしていたある日。
「そろそろ魔物にも警戒した方がいいかな」
「そうだね。ダルが熱を出して途中の羊の里で休んだからかなり魔族の国に着くのが遅くなりそうだな」
「それは仕方ないでしょう。ダルはまだ生まれたばかりで長旅は可哀想だ。貴方も父親ならもっと家族に気を配った方がいい」
「そうだけど……俺がダルと過ごして日が短いから……実感が……出産にも立ち会えなかったし……」
毛の色を白く染めるのを止めて薄青色の毛になっているペコルにダンがそんな言い訳のような話していた。ダンは未だにダルとの距離感に悩まされていた。ダルはダンが抱っこすると直ぐに泣いてしまっていて、最近はリャルルが馬車の中でずっと抱いたままの時間が多くなっている。
「どうしますか? もう直ぐ白羊の里です。ここを越えれば羊の里も終わって本格的に魔物の出る場所ですよ」
「どうするって、警戒して慎重に進むしかないだろ?」
「ダン、貴方一人の旅ならそれでもいいでしょう。しかし今は子供が一緒なんですよ!」
「ああ……」
馬車の操縦席で言い合わそう2人を見て私とリャルルはダンに少し呆れていた。
「ダンがあんなに冒険者としても父親としても使えないとは思わなかったわ……」
ダンはこの2週間馬車の操縦以外殆ど何もしていなかった。私の子育ての時はあんなに熱心だったのに今回のダルの子育ては明らかにサボっている様に見える。
「お母さんはお父さんとどこで出会ったの?」
「猫の里の近くの使徒の遺跡よ。ダンはそこで遺跡の発掘調査をしていて、私がその遺跡にターガツの代理で視察に行ったの」
「それで付き合ったの?」
「そこでは付き合って無いわよ。私が遺跡の調査を終えて領都へ帰る時にダンが『中央特別領の神殿に行きたいので途中の領都までご一緒していいですか?』って言ってきて、私は『冒険者なら魔物が出ても足手纏いにならないなら』って言って一緒に旅をしたの。ダンはそれなりに魔物とも戦えて素早い動きで双剣を振るっていたし、1人で偵察とかにも行って斥候としても優秀で食料も現地で調達したりして頼りになったわよ」
「それで?」
「領都に着いてダンはそのまま中央特別領に行ってしまったわ」
「ええ? それで何で結婚する事になったの?」
「ええと……ダンが中央特別領に行って1年くらい経って、ダンが突然私を訪ねて来てプロポーズされた」
「はぁ? 何で突然プロポーズ? それで何でお母さんも結婚したの?」
「何でだろう。長い間孤独だったからかな……魔族の貴族の家のメイドの子供として生まれて、それから国中を転々として母親も死んで、やっと命を狙われない絵本の国に辿り着いても魔族の血が受け容れられない人の中で暮らして差別されて、やっと領都での仕事を手に入れても私が嫌いな人や私の能力が目当ての人の中で過ごすのにも疲れて、そんな時に突然のプロポーズ。それも獣人族で短い旅の中で少し頼りになると感じた人だったからかな……」
リャルルは少し遠い目で馬車の天井を眺める。
『ダンってリャルルが元使徒で魔王と呼ばれていた存在だって気付いてたのかな? それとも他に何かあったの? それじゃないと突然プロポーズなんてしなくない?』
「あら、後ろから馬車が近付いて来るわ。あれはコットン商会かしら?」
考え事をしていた私の耳にリャルルの声が聞こえた。
「そうですね。コットン商会ですね。道を譲りますか?」
「そうね。そうしましょうか。何か急いでいるみたいだし、武装商戦団のコットン商会と揉めたくは無いわ」
ペコルの問いにリャルルが答える。確かに後ろから迫る馬車団のスピードは速い。遠くに見えてからアッと言う間に追いつかれてしまう。
「ダン、左側に馬車を寄せて下さい」
「分かってる……」
ダンはペコルの言葉にどこか不服そうに返事をすると馬車を道の左側に寄せて走った。
ドドドドドッ
大きな音を立てながら5台の馬車団が走って来て私達の馬車の隣に並ぶ。
「おたずねします。この馬車にリャルルはんと言う方は乗ってらっしゃいますか?」
どこかイントネーションが関西っぽい話し方の白羊の女性が御者台のペコルに話し掛けてきた。
「貴方は?」
ペコルはリャルルの事は話さず相手の素性を聞く。
「えろうすいまへん。私はコットン商会会頭の白羊シーメェと申します」
「私は白兎ペコル。リャルルに何か用?」
「私共の臨時で雇った護衛にリャルルはんと言う方を捜しているエルフが居りましてな」
「エルフ? リャルル、エルフに知り合いっている?」
ペコルは私達の乗る後ろを振り返る。
「エルフですか? いない事もないですけど……」
「私です! フリザです! 不裏氷フリザ!」
隣を走る馬車から大きな声が聞こえた。




