白獅子の里に出発
パラルに別れの挨拶をして次に保育園へと歩いていた。
パラルとピョコルには事前にペコルから『私が使徒だと誰にも話さない様に』と言ってもらっていたので挨拶だけ。最後にパラルからは笑顔で『元気で。ペコルを宜しくね』と言われて、忙しいパラルは患者の待つ病室に戻っていった。
保育園の私のクラスはいつも通り。浮いた空気だった私が居なくても変わらない様子。
ピョコルに別れの挨拶をしても遠巻きに見られるだけ。そんな中でアイとアンの白犬人の双子の2人が近付いてくる。
「チタリの件は……ありがとう」
アイが照れ臭そうに顔を背けて言う。
「あの話は内緒……なんですよね?」
アンの言葉遣いがいつもより丁寧だ。
「あの話……ああ……うん」
あの話とは私が使徒だと知っているのか。ゴウケンが口止めする前に話したんだろう。
「言ってくれれば最初からあんな態度はしなかった」
アイが私の目を見る。
「知られたくなかったし、私自身も確信が無かったんだ」
「そうなのか……ですか……」
アイの言葉遣いが変だ。
「いつも通りの話し方で良いのに」
「でも父から……『気を付けて接しろ』って言われたから」
また目線を逸らす。私が使徒だと思っている人はやはり態度が変わる。それが良い事なのか悪い事なのかその時の私は知る由も無かった。
白獅子の里に出発の日。
私達を見送りに来てくれたのはピョコルとバルナの3人だけ。それも一緒に行く妹のペコルの見送りがメインのパラルとピョコルと、馬車を持ってきてくれたバルナ。
『こう思うと私達家族はこの町ではあまり歓迎されていなかったのだと分かるな……』
「出発しようか」
リャルルの言葉でペコルが馬車を走らせる。
白獅子の里まではかなり遠い。そのため領主のターガツから特別に馬車が贈られたのだった。
この世界で普通の馬などの家畜は珍しい。
「リャルル様! 行ってらっしゃいませ!」
バルナが手を振る。
「元気で!」
「またね」
パラルとピョコルも笑顔で手を振っていた。
「行って来ます!」
私は小さな手を大きく振り返した。
馬車は順調に西へ向かって走る。
白獅子の里までは2週間、そこから国境のある町まで4日。
「この辺は魔物が出ないですから夜の見張りは必要無いですか?」
ペコルがリャルルやダンと相談している。
「そうね、獅子の里近くなるまでは必要無いかしら」
「1週間は気楽な旅だな」
「ダン、猫の里には寄らなくて良いの? 少し道を逸れるけど通り道って言えば通り道よ?」
「いいよ。少し前に帰ったばかりだし。それに用も無い」
「そう? 娘と息子の顔を親に見せなくてもいい?」
「いい。あの人達は俺の子供になんて興味が無い。まして『猫族以外の産んだ子なんて』ってこの前帰って伝えた時に言われたくらいだから。ハア……猫族以外の子供なんていない者と同じなんだろう」
ダンが溜息を吐く。
「この国は他の種族と血が混じるのを極端に嫌いうから」
ダンの言葉に馬車を操縦するペコルが同意した。
「そもそも本来はあまり種族が離れ過ぎてると子供が出来ないから、それもあるのかもね」
「そうなのか? でも俺達には子供が出来たぞ?」
リャルルの言葉にダンは疑問に思う。
「ああそれは私に魔人族の血が流れてるから。魔族や人族は混血の子供が出来るの」
ダンの疑問にリャルルが答える。
「そうなのか。……魔族も?」
「そうだよ。元々魔族も人族も同じ種族だったのだから。それが魔族の祖先は魔力がある事が特権だと貴族を名乗り出して魔力の多い者同士で結婚が増え更に魔力が高まり、残った魔力の少ない者同士が結婚したから今の人族は殆ど魔力持って生まれなくなったの」
「詳しいな」
「まあ……長生きだからね」
「そうか300……グハッ」
年齢を言おうとしてリャルルにダンは腹を殴られる。
『私の知らない事はまだまだ多いな』
私は大人達の話に猫耳を傍立てながら寝ているダルの顔を見ていた。
『私もこんな顔なのかな……』
ダルの顔を見ながらそう思っていた。この世界には綺麗に姿を映す鏡が少ない。だから今まで自分の顔をまじまじと見た事がなかった。
『この姿なら他の獣人族から見ると異端者に見えても仕方ないか』
白山領の獣人族の顔は殆ど動物の顔そのものに近い。
『私が知ってる様な人の顔に近いのはリャルルの他にだと亜人族のドワーフとエルフだけ。ドワーフ族は鉱山区画方に行けばかなりの数が住んで居る。今のところエルフで会ったのはこの前領主官邸の訓練場で会ったハーフエルフのフリザだけ。殆どのエルフは東の青霧領に住んでいるからな……青霧領は他に竜人族が暮らしているんだったよね。竜人……竜は竜人族に転生出来たのかな? 青霧領に行ったら会えるかな?』
そんな事を考えながら私は馬車に揺られていた。




