久々の我が家
『何か大事な事忘れてない? …………ダル!』
もう直ぐ家に着くとなった時、私は弟のダルを白兎家に預けたままになっていると思い出す。
「ダルを迎えに行かなくちゃ!」
「ダル?」
「私の弟!」
「そうだった! リャルル……無事に子供産まれたんだ……って、何で先に言ってくれなかった!」
「お父さんだってお母さんのお腹を見て何も思わなかった?」
「……いつものリャルルで可愛いなとしか……」
「もう直ぐ子供が産まれるって知ってたでしょ? それなのに勝手に出張とか言って実家に帰るとか……それで自分の妻が自分の子供を産むのを忘れてるとか……普通に考えて無いよ」
「…………」
「どうかしたの?」
私がダンを問い詰めているとダルを抱いたリャルルが帰ってくる。後ろには何故かペコルの姿もある。
「リャルル……すまん。妊娠中なのに勝手な事して……」
「もうそれはいいわ。それよりダルを抱いてあげて」
「その子が……ダル?」
「そうよ。ダンがいなかったから私が決めた。ダンのダと私のリャルルのルからダルと名付けたのよ」
「ダル……可愛いね」
リャルルからダルを受け取ってダンはダルの顔を見て微笑む。
「お母さん怒ってないの?」
「もう良いわ。家族が揃ったのだから。それにこれから忙しいわよ! ……改めて、お帰りダン」
リャルルが笑顔でダンに抱き付く。
「お帰りお父さん」
私もなんだか思わずそう口にしてしまう。
「ただいま……忙しく……リンが使徒様か」
「止めてよお父さん」
「でもリンは使徒様なんだから。何でも出来るし、みんなに命令も出来るだろ?」
「使徒は何でも出来るとは限らない。それに私が使徒だからと言って誰彼構わず命令するのは無理、だから止めて……じゃあ……使徒として命令! 私とは前と同じ様に接する事!」
「はい……うん分かった」
ぎこちなく答えたダンはまだ使徒と言う存在に拘りがあるようだった。それも仕方ないのかもしれない。リャルルと結婚して私が産まれると分かるまでは冒険者として昔の絵本の使徒様の洞窟を発掘していたのだから。
『自分がその使徒様かもしれないと思い、妻が妊娠している事も忘れるくらい舞い上がってたのかもな……で、殺人容疑を掛けられてそれを娘が使った魔法で解決して……娘が使徒様だと聞かされ嬉しさと複雑な気持ちになってるんだろうな……リャルルも結婚したのに自分が元使徒だって言えなかったって負い目をあるのかもしれない。ダンが使徒の事であんなに心を動かされているのを見て、だからダンを怒ったり出来ないのかな?』
「ミャ~~」
ダルがダンの腕の中で泣き出す。
「私が代わる。ダルのお乳の時間だ」
そう言ってダンからダルを受け取り家の中に入っていった。
「久しぶりの我が家だ」
ダンは家に入ると鼻をクンクンさせて匂いを嗅ぎ伸びをする。
「ダルのベッドを組み立てて、リンの時に使ったのがあるでしょう」
リャルルはダルを抱いたまま椅子に座りダンに言う。
「ベッド……どこにしまったんだったかな……」
そう言いながらダンは奥の部屋へと向かう。
「ねえお母さん、何でペコルさんが一緒なの?」
「白獅子の里にペコルさんも一緒に行く事になったの」
ダルに授乳しながらリャルルは答えた。
「何で?」
「ターガツ様から使徒様の護衛が必要だって言われて、でも騎士や領兵を連れて行くのは嫌だったんだけど……そう思いながら領主官邸を出る時にペコルさんに会ってダルを迎えに行く途中、歩きながら話して一緒に行く事に決めた」
「そう……それで何でペコルさんなの?」
「それは私から話す。私は白兎族として生まれて育った。だが洗礼式で毛の色が水色になってしまったんだ」
「毛の色が変わったの?」
私はペコルの話に驚く。
「たまにあるらしいんだけど。でもそれが自分に起こるなんて……」
「でも、ペコルさんの毛の色って白くない?」
「染めてるんだって。白兎なのに水色の毛だと疑いの目で見る人がいるから、特に白山領の領都では白毛とそれ以外だと扱われ方が変わるの」
リャルルが代わりに答える。
「そうですか……それで何で一緒に白獅子の里に?」
「冒険者の仕事はこの町では少ないから。今は姉達にたまたま会いに来ていて、次にどの町に行くか考え中だったんだ。それでリャルルさんから白獅子の里に行くって聞いて、白獅子の里なら知り合いもいるし護衛の給料も領主様から出ると聞いて……」
「分かりました。護衛ならお父さんで充分だけど頼りない所もあるから丁度良いかも。私とお母さんも魔法でサポート出来るし……ねえ、そもそも護衛が必要な旅なの?」
「そうか、リンはまだこの町から出た事無いから知らないんだ。この町の周辺は魔物が狩り尽くされてて殆ど見掛けないけど、白獅子の里は魔族の国が近いから魔物がまだ結構出るのよ」
「魔物が!」
「そう、リンは魔物との戦いは初めてになるだろうし、ダンも冒険者で腕は立つけど猫の里では遺跡発掘調査が主な仕事だったから魔物との戦闘経験は少ないらしいの。その点ペコルさんは冒険者として何度も魔物と戦ってるし護衛の依頼も何度も受けてて信頼出来る」
「リャルルさん、そこまで何度も依頼は受けて無いです。私、これでもまだ成人して3年目の8歳ですから」




