本当の使徒と絵本
「パラルどうしたの? お乳を持って帰ったばかりじゃない」
病室に入ってきたパラルの顔を見てリャルルは驚く。
「リン様からお話が……」
そう言ってパラルは横に除け私を抱えたペコルをリャルルの前に行かせた。
「リン?…………リン様?」
最初は私が病室に訪ねて来たのを疑問に思い、次に私をパラルが様付けで呼んだ事に不思議そうな顔になるリャルル。
「お母さん、私……使徒なの」
「はい? 使徒?」
「うん、今まで黙っててごめんなさい」
「リンが使徒? それは絵本の使徒様の事?」
「うん」
「あぁ……クククッ……フフ。なるほど……パラルさん、ペコルさん、リンと話したいから2人にして貰っていい?」
「はい」
パラルとペコルはリャルルに言われるまま病室を出て行く。
「フフフフ、それでリンが絵本の使徒だって?」
「うん」
「そうなの。それなら絵本を見せて?」
「絵本? 絵本は家にあるから今は持ってないよ」
「今は持ってないか……フフフ。そうかそうか……ブック!」
リャルルの『ブック』と言った言葉でその手に本が現れる。
「本?」
「そうよ、これが使徒の絵本」
「使徒の絵本? えぇー!」
私は思わず大声を出して驚く。
「どうしたの!」
ペコルが私の声が聞こえて病室に入って来てしまう。
「何でも無いよ。リンが絵本を落としてしまって驚いただけ」
何故か私の足下に本が置かれていた。
「あぁー! もしかしてそれが使徒様の絵本!」
「ペコルさん、秘密よ。まだ話の途中だから……ね」
ペコルは口に手を当て無言で何度も肯きながら部屋を出て行く。
「待って待って。リャルルが使徒様なの?」
「まあそうね。元だけど」
「元?」
「元使徒」
「使徒に元なんてあるの?」
「さぁ。私もよく分からないよ。でも前は使徒だった……のかな」
「それは使徒じゃなくなったって事?」
「まあそうね。私の後に喚ばれた使徒……だと思う人に倒されて、その時に偶然魔法で近くの妊娠していたメイドのお腹に入った?……みたいな感じで人族と魔族の混血ハーフにもう一度生まれたの」
「そんな事って出来るの?」
「出来る……出来ちゃったかな? 偶々私が魔族の体で生まれて魔法を使えたからかな?」
「今は使徒じゃ無い……何で?」
「絵本の使徒はね、この絵本に願ったらその答えが神様から書かれるの。それと神様が使徒にして欲しい目標?……目的? そんな感じの事も書かれるのよ。でも今の私の絵本には何も書かれていない。絵本に願っても何も書かれない。だから私は元使徒。使徒をクビになったんだと思う」
「リャルル……お母さんが使徒だったって知ってる人は他にいるの?」
「いないわ。知ってるのはリンだけ」
「何で獣人族が暮らすこの国に来たの?」
「前に言った魔族の貴族と人族のメイドの間に産まれたって言ったのは本当。だから命を狙われたのも本当。私だけなら何とでもなったかもしれないけど、私を産んだ人……リンのお婆ちゃんに当たる人を守るために逃げて来たの」
「そうなんだ……その私のお婆ちゃんはどうなったの?」
「この国に来て死んだわよ。人族だったから寿命でね」
「そう、お母さんは300歳を超えてるんだもんね」
「コラ。それは言わないで。私はいつまでも若いんだから」
「それは魔法で?」
「まあそうね。私は普通の魔法の他に特別な魔法が使えるの。それは全てのモノを加速と減速させる魔法なんだけどね、だから私は常に体の老化を限りなく0に減速させてる。だから若い体なのよ」
「その魔法って私も使える……使ってる魔法かな?」
「そうだと思うよ。リンは私を真似して魔法を覚えたから。私そもそも普通の魔法はあまり得意じゃないから。いつもは普通の初級魔法に加速の魔法を組み合わせて使ってるだけ」
「そうなんだ。それなら私が本格的に魔法を学んで加速の魔法を使ったら大魔法使いになれる?」
「なれるかもね。世界最強の魔法使いにもね」
「私……もっと魔法を勉強したい!」
「うーん、それは難しいかな。魔法を本格的に習うなら魔族の国に行かないと」
「そうなの?」
「そうだ! リンが良ければ家族みんなで魔族の国に引っ越す? でもダンは無理かなー……それか白獅子の里にある国境の町で暮らそうか。あの町なら魔族とも人族とも貿易をしてて交流があるから、リンに魔法を教えてくれる魔族もいるかも」
「お母さんは教えられないの?」
「私は使徒だったから魔法をキチンと習って無くて絵本に書いてあった様に使ったら魔法が使えたからな……人に教えるのは無理」
「分かった。私、白獅子の里に行きたい!」
「よし決まりね。みんなで白獅子の里に引っ越そう!」
「うん! ……でもお父さんは?」
「ああ……そうだリン、リンがこのまま使徒のフリを続ける。それでゴウケン将軍に使徒として命令しててダンを釈放して貰う。そして、私はターガツに言って秘書の仕事を辞める! ……ペコル! もう良いよ! 入って来て!」
リャルルは大声で病室の前にいる筈のペコルを呼んでゴウケン将軍への伝言を頼むのだった。




