領主の決め方
夕方には少し早いが、父親に利用されたと知ってショックを受けているアイとアンをバルナが送って一緒に帰って行った。
家の中は白兎3姉妹とダルと私。
「私はそろそろ病院に行ってダルちゃんのお乳を貰って来ないといけないわ」
パラルはそう言って家を出て行く。
「リンちゃんがこの家にいると将軍にバレましたわね」
「でも、襲っては来ないでしょう。一応白兎家だから。それに私もいるし! 返り討ちにしてやるわ!」
「ねえ、前から気になって気になってたんだけど、白兎家って偉い人の家なの?」
私はこれまで3姉妹の言葉の端々に出ている権力者の片鱗が気になっていた。
「偉いって言うか……白山領の領主を決める権利の有るメンバーの一族」
「領主を決める?」
「そう。領主は白獅子族、白虎族、白豹族、白猫族の中から選ばれるの」
「それは絶対?」
「そうね、絶対。これは絵本の国を3つに分けた何代目かの使徒様の意向? 逆に言えば呪いの様なもの。他の種族が領主になると鉱山から鉱物が出なくなったり、作物が育たなくなったり、大雨や大雪が降ったり、逆に雨が全く降らなくなったり何かしらが起こるのよ」
「他の種族はそれに納得してるの?」
「納得……そうね、領主は権力者でもあるけれども責任者でもある。だからこの世界を創った神様なのかな? 絵本の使徒様を喚ぶ神様の反感を買うと新たな使徒様が召喚されて領主を殺しに来るらしいわ」
「領主を殺す……」
『前世の記憶の有る私がもしそのピョコルの言う使徒なんだとしたら、私の使命って領主を……ターガツを殺すために喚ばれたの? でも何も言われてないよ? 異世界転生って生まれ変わる前に神様に会って『〇〇をしろ!』とか言われるんじゃないの?』
「リンちゃん?」
ピョコルが私の肩を揺する。
「え?」
「リンちゃんってたまに私達の声が聞こえていないみたいに深く考え事をするわよね? リャルルさんからもよくあるから気を付けてって言われてるのよ」
「お母さんから?」
「ええ、それで話の続きをしても良いかしら?」
「……はい、領主は白獅子、白虎、白豹、白猫の4種族から選ばれるでしたね」
「そう。そしてその4種族の中から領主を選ぶのが私達の白兎それから白犬、白熊、白鹿、白犀の5種族。それで白兎家には強い力があるの」
「それじゃ今の領主のターガツ様を選んだのもその5種族?」
「それが今回の領主選定は違ってね。いろいろあって4種族が出した領主候補の4人の内で残ったのがターガツ様だけになってしまって、自動的に暫定でターガツ様が領主になって、そのまま領民に大きな不満も出なかったので今日まで続けてもらってるだけなの。勿論、領主候補5種族家や領主選定5種族家の中には不満を言う種族もいるけど、大多数の領民はターガツ様を領主として信頼しているわ」
「反対してる人達はターガツの何に反対なの?」
「領主候補4種族家の中には選定をやり直して自分達の種族の中から領主を出したいって考えの人もいるし、選定5種族家の中には自分達で選んでいないと考える人もいるの。それに……リンちゃんには言い辛いのだけど、リャルルさんを重用している事が気に入らない人も多い。特に白の付く種族は白山領をずっと支えて来たのは自分達だと言うプライドみたいなものが有るのよ」
「白い獣人には何かあるんですか?」
「元々白山領は白獣人しかいなかったの。でもある使徒様が『動物や魔物は多色なのに獣人だけが単色なのは変。もっとカラフルにしましょう!』と動物から新しい獣人を創ったのです」
「動物から獣人を創った?」
「そうですよ。最初の獣人も2番目の使徒様が動物を元に創ったのですから。白山領には乳で育つ白い獣人を朱森領には羽根を持つ朱い獣人を玄海領には鱗や甲羅を持った玄い獣人を……」
「待って下さい! この世界には鯨やイルカ、蝙蝠の獣人はいないんですか?」
「リンちゃん? 何でそんな……もしかして知っているの?」
『しまった……! 口を滑らせた。何て言い訳しよう。…………家にあった本で見た事にする? 動物図鑑みたいなものはこの世界にも有るよね?』
「リンちゃん! リンちゃん! また声が聞こえていないの? それとも聞こえない振りをして誤魔化しているのかな? まさかリンちゃんが白兎族の秘密を知ってるとは思わなかったわ……それともリャルルさん? まさかダンさんが! そう言えばダンさん領兵になる前は使徒様をの遺跡を調べる冒険者だったって……」
ピョコルは私の肩を揺らしながら、その揺らす手の力が強くなっていく。
「ピョコル姉さん、どうするの? まさか白兎族禁断の秘密を知ってるなんて、これは白犀族にも関わる一大事。バルナはリャルルさんを尊敬してるけど秘密を知られてしまっては……」
ペコルの顔も怖いものに変わる。
『秘密って鯨やイルカ、蝙蝠を知ってるとそんな大事なの?』
私は何て言い訳しようか2人の声が聞こえていない振りをして考えていた。




