タリアの選択
アンを引き止め私は話がしたかった。
アンは一度振り向いたが何も言わずにまた振り返ってしまう。
「…………」
「……何で? カウヨに言われたからってルーフに同行するって決めたの?」
「カウヨは恐ろしい人……です」
「恐ろしい人?」
「私の心の中を知っている様に……私の悩みや言ってもらいたい事……私の心を動かす言葉を……だからタリアにはこのままカウヨとは話さず旅を続けて欲しいです」
「それは勿論アンも一緒だよね?」
「私は一緒には行けません」
「どうして?」
「今後の事もカウヨに言われています」
「今後?」
「カウヨは私にこの後起こるであろう事態を話しました……なのでカウヨの言う通りにもしなったとしたら……私は絵本の国に戻らなくてはなりません」
「カウヨに何を言われたの?」
「カウヨは……アダルがいなくなった事を知っていました」
「知っていた? それはユズの店に来る前に?」
「そうです。私がカウヨに会いに行って話をして……今後、私が歩むであろう道を……何通りか話してくれました。そのどれもが私ならその状況になれば多分その選択をするだろうと言うものでした」
「予知って事?」
「私もそう思ったのですが、予知とは少し違う様です。カウヨが持っている情報を元に世界を予測しているのだと……」
「何それ?」
「カウヨは……使徒なのだそうです」
「使徒?………………使徒様って事?」
「リンが使徒様……でしょ?」
「使徒様は何人もいるのだそうです」
「何人も?」
「それとリンは使徒では無いそうです。ですがカウヨの知っている限り何人もの別の使徒様が存在していて、その中の何人かとは既に会ったそうです。その中には私達の知っている人も……」
「誰?」
「それは教えてもらえませんでした。ですが……次に私が出会う使徒様は教えてもらいました」
「それで?」
「ここからは私ではなくタリアの選択です……使節団として風大領に行くか……アダルと朱森領に行くか……旅を止めて帰るか……私はアダルと朱森領に行く選択をしました。タリアはどうします?」
アンは真剣な目で私を見詰めていた。
「私は…………」
10日後。
アダルが馬で魅高の町に来る。
「僕は朱森領に帰るよ!」
ルーフにそう伝えた。
「なぜ!」
「僕が帰らないと……イヴリンが……」
「イヴリンってアダルの婚約者だった?」
「うん。イヴリンは死ぬらしい……」
「何でイヴリンが?」
「病気らしい……それで助かる方法が……孫の存在だって……それも僕とイヴリンの娘が産んだ娘で次の領主になる女の子」
「何でそんな事が分かるの? アダルを連れ戻す嘘とかじゃないの?」
「それは無い……これはルーフも知ってる……使徒様の言葉だから」
「…………」
ルーフはその言葉で納得した様だ。
「ルーフとはここでお別れ。ルーフは朱森領に戻ってはダメだから」
「それもカウヨさんの?」
「そう。だから元気で!」
こうしてルーフとクオとユズは飛行艇で首都エルに帰って行った。
「本当にこの選択で良いのですね?」
アンは私の目を真っ直ぐ見る。
「ええ……私はアダルとアンと一緒に朱森領に行く!」
『私のこの選択は正しかったの?』
アンから聞いたカウヨの私の未来予測。
私が白山領の領主になる未来……私が世界を救う未来……何も特別な事も起きず一生静かに過ごす未来……。
私が選んだのは……




