アイとアンが来た理由
「ミュミルから酒に酔ったケニックが『本当は領兵になんてなりたくなかった。チタリの親父に復讐出来たら直ぐ領兵なんて辞めてやる!』って言ってたって聞いた」
「ミュミルちゃんがチタリくんとケニックくん2人と仲良かったのは憶えているわ。保育園では一緒の時期はなかったからあなた達2人とミュミルちゃんの仲が良いなんて知らなかったわ」
ピョコルが懐かしそうに話す。
「ミュミルって誰だ?」
バルナはピョコルに聞く。
「ミュミルちゃんはチタリくんやケニックくんと保育園で同い年の卒園生でモムルちゃんのお姉さん。リンちゃんはモムルちゃんは知っているわよね?」
「……モムル?」
「同じクラスの黒兎族のモムルちゃん彼女のお姉さんよ」
黒兎族の女の子がいた記憶はあるがピョコルの言った名前までは憶えていない。
『私の事、クラスのみんな避けてるんだよな。まだあまり話した事無いし、クラスで私だけ浮いてる』
「それでケニックがチタリを殺した? 根拠が薄い気がする」
バルナは納得いかないようだ。
「でも、子供が殺されて一緒に仕事に行ったもう一人だけ無事に帰って来るってケーリヒとマタリの状況に似てない?」
「言われてみれば確かに、だが決定的な証拠とは言えないな……」
ドンドン
アイ達との話の途中で白兎家の玄関のドアが強くノックされる。
「開けろ! ここにゴウケン将軍の娘がいるはずだ!」
外から怒鳴り声がした。
「私が出てくる」
ペコルが席を立つと玄関へ向かった。
「何の用?」
「ゴウケン将軍の娘さんが誘拐されたと連絡が入った!」
「それで?」
「この家に連れ込まれたとの情報がある」
「それで?」
「ここを開けろ!」
「誘拐されたってのは誰が言ったの?」
「それは……ゴウケン将軍だ」
「ゴウケン将軍が? 娘が誘拐されたと?」
ペコルと玄関の外の騎士との遣り取りを聞いていたアイが立ち上がった。
「私は誘拐などされてない!」
「アイさん?」
「そう!」
「何故このような場所に?」
「保育園の担任の先生家に遊びに来ただけだけと? 何か問題が?」
「いえ……バルナに連れ去られたと……」
「バルナ様との訓練の後で、共通の知り合いのピョコル先生の家に来ただけです。お父様には夕方までには帰るから心配無いと伝えて」
「ですが……連れ帰るようにと……それにアイさんが脅されてその様に言っている可能性もありますので……一度ここを開けて貰えませんか?」
その言葉にアイは私を見て首で奥の部屋へ行く様に合図した。
「リンちゃん、隣の部屋へ隠れて」
「え?」
パラルがダルの寝ている部屋へ私を押し入れ扉を閉める。
「……確かにアイさんとアンさんです。それにバルナ……」
「何をそんなに私達の家の中を歩き回って見る必要があるのです?」
パラルの声に
「怪しい者が潜んでいないか確認しているだけだ……」
トタトタと私のいる部屋へ足音が近付いて来る。
「怪しい者? 止まりなさい! ここが誰の家か知ってるわよね? 白兎家よ! 怪しい者などいる訳が無い、2人の確認が済んだのなら早く出て行きなさい!」
「いや……まだ確認が終わって……」
「終わって無い? 2人が無事な事の他に白兎家で何を確認する必要が?」
「……マ……んん。失礼した。ではお嬢様2人を無事に家へ送り届て下さい。頼みましたぞ」
トタトタトタ……バタン
足音が遠離り玄関のドアが閉まる音がした。
「もう良いわよ出て来て」
パラルがドアを開ける。
「アイさんとアンさんを捜すと言って本当はリンちゃんを捜しに来たんでしょうね」
「そうだと思う。多分ゴウケン将軍は2人が私達に真犯人を教えてリンちゃんの居場所を確かめるために、わざと聞こえる場所でケニックとチタリの名前を出したんだと思うわ。だから鼻の利く茶犬族の騎士を遣わしたのだと思う」
「油断したわ茶犬族の騎士ドーバ、あいつは騎士の中でも鼻が利くと有名で捜索のプロ、隠れた間者を見つけるのを得意としている。多分、リンちゃんが確実にこの家にいるのを確かめに来たんでしょうね」
バルナは訪ねてきた騎士が捜索のプロだと話すのを聞いて私はアイとアンを見る。
「私達は本当に真犯人を……わざとピョコル先生の家に来てリンがいるのを見付けさせる目的なんかじゃない!」
アイは私の目を真っ直ぐ見る。
「分かっているわ。2人は利用されただけ」
ピョコルは優しい声を掛け2人を抱きしめた。
「利用……お父様に……リンちゃんの……捜す目的で……」
アンの声は震えていた。




