先回りで待つ
「アダルが攫われたのか…脅されたのか……自分の意志で朱森領に戻ると決めたのか……それは分からない。分からないからアダルに会って聞かなければならない!」
ルーフの言う事はその通りだろう。
『それでも理由にもよるなら故郷の朱森領に帰って婚約者になるはずだった人と結婚するとアダルが言ってもルーフは納得出来るのだろうか?』
私は心の中でそう思ったがルーフにそれを聞く事は出来なかった。
「それにしても2日……一瞬でしたね。私達が何週間も掛けて馬車で旅をして来た距離が本当に一瞬……飛行艇は便利ですね」
ベァーテスば飛行艇を降りてその大きな機体を眺めながらそう呟いた。
「これでもスピードは遅い方なんだよ。この飛行艇は荷物運搬用だから」
クオがベァーテスにそう説明する。
「まぁそうねぇ。カウヨは名目上は貿易商なのだからぁ。飛行艇を使って各地の物を買い付けるぅ表向きはねぇ。でもぉ実際はぁ各地の有力な者達を誘ってぇ……」
「秘密組織に勧誘すると?」
ベァーテスはユズの言葉に続ける様に聞いた。
「そうねぇ。それが裏の仕事でぇ本当の役目ぇ?かしらぁ。ァハハァ」
そうユズは笑った。
「何日くらい待つのでしょうか?」
魅高領に着いて3日。ベァーテスは何もする事が無いので暇を持て余していた。
「仕方ないのではないでしょうか。私達は飛行艇で来たのですから。アダルは馬でですから……私達がエルに行くまでに掛かった日数を考えると……まあ後1週間は……」
「暇です!」
私の話にベァーテスはベッドに倒れ込む。
今回は使節団としてでは無いため安宿の2人部屋に泊まっている。私とベァーテス、ユズとクオ、ルーフとアンに分かれて部屋を取っていた。
そしてこの宿を取ったもう1つの理由は首都エルからの街道沿いにあり窓から交代でアダルが町に着いたかを監視するためでもあった。
コンコン
部屋の扉がノックされた。
「タリア、ベァーテス。見張りの交代お願いします」
アンがそう部屋の外から声を掛けてくる。
「はい……もうそんな時間?」
「では私が」
そう言うとベァーテスは窓際に椅子を移動させて座り外を見張る。
「お願いします」
そう聞こえアンの足音が遠離って行くのが分かっる。
「待って!」
私は急いで部屋の扉を開けるとこちらを振り返るアンの顔が見えた。
ここ2日ほどアンとは顔を合わせていない。話をするのも扉を挟んで交代を告げるだけ。
「私を避けてる?」
目があった途端、私の口からそう言葉が出ていた。
「…………」




