逸れ者の種族
「その獣人はアダルの店にも行っていたのか?」
クオの問いにソルンは考え込む。
「うーん……行ったけど行ってない」
「どう言う事?」
ソルンの言葉に全員の頭に“?”が浮かぶ。
「店の戸を開けて中を見て、入らないで直ぐに戸を閉めて帰った。多分、お腹いっぱいだった」
「いやいや。それってアダルを見つけだけど、彼に見付からない様に入らずに帰ったんでしょ。めっちゃ怪しい……」
私の言葉にソルン以外の全員が頷いた。
「アダルは攫われた? それとも追っ手に気付いて姿を隠している?」
ルーフは小さく呟く。
「ねえ、そもそもアダルを攫う理由は何? 2人は朱森領で何かして逃げて来たの?」
「何かした……そうだな、逆にしなかったと言った方が良いかもしれない」
「どう言う事?」
「私達2人は決められた結婚……婚約から逃げて冒険者になったんだ。だから朱森領からの追っ手が簡単に来られない魔人国に来た。魔人国なら追っ手の獣人が来ても目立つから直ぐに逃げられるだろうし隠れる事も出来る」
「じゃあ領境の町にいた鳥の獣人はその追っ手?」
「まあ……正確には鳥の獣人では無いが、私達2人を連れ戻しに来た追っ手か、その先行の下見の者かだろうね」
「そう……うん? 鳥の獣人では無いってどう言う事?」
ソルンは黒い羽の生えた獣人だと言っていた。なのに鳥の獣人では無いとルーフは言う。私は疑問に思ってルーフに尋ねる。
「オルエが鯱族や鯨族は白山領に見捨てられた獣人だと言ったのと同じ様に朱森領にも同じ境遇の獣人族がいる。それが多分ソルンが見た鳥に似た姿の獣人。蝙蝠族だ」
「どうしてソルンの話だけでその獣人が蝙蝠族だと思うの?」
「私達、朱森領の獣人の羽には羽毛と呼ばれる毛が生えている」
そう言ってルーフは自分の羽を広げて見せる。確かによく見るとルーフの羽はフワフワだ。
「うん、それで? ソルンが見た獣人はその毛が無いから蝙蝠族?」
「簡単に言えばそうだ。厳密に言えば他にも根本的な違いもあるが、見た目の違いだとそこが一番見分けるポイントだな」
「それって少し変じゃない?」
「どこがだ?」
「だって、その蝙蝠族は鳥の獣人では無いのでしょ? それなら何で朱森領の手先の様な仕事をしてるの?」
「フン。これだから世間知らずは……」
私の言葉にオルエは機嫌を損ねたらしい。
「鳥の獣人では無いからこそ朱森領のために働いてるんだよ」
「そう……そうじゃないといつまで経っても逸れ者のまま。肩身の狭い暮らししか出来ないんだよ。そうじゃなければ玄海領にも朱森領にもまして白山領にも私達の様な種族は居場所が無いんだ!」
ルーフの話に続けてオルエは怒りの隠る言葉を吐いた。




