白兎3姉妹の家
ピョコルとその妹のペコルに連れられ私と弟のダルは領都にある白兎族の屋敷に滞在していた。
弟のダルの世話はパラルが病院の仕事を休んで手伝ってくれている。
この後、私達が病院から抜け出した日、リャルルは産後と言う事とターガツの命令もあって連れて行かれる事は無かった。でも私とダルは保育園に戻る事も病院に戻る事も出来ていない。それはリャルル排斥派が保育園にも病室の中にもいて、私とダルが誘拐されたり危害を加えられたりしないためだ。
これまで魔族の血が流れるリャルルに寛容だった白鼠族のチタリがダンに殺されたとの噂とリャルルがそれを指示したとの噂が流れ、リャルル排斥派が増えているらしい。
リャルルは病室で領相のアラシの立ち会いのもと排斥派の尋問を受けている。
今のところターガツが目を光らせているので排斥派達が強行手段に出てはいない。
そして今日、ダンが猫族の里から領都に連行されて来る。
ダンはずっと無実を主張していたが、「目撃した」と言う人物がいるのと黒猫族からも見放されていて周りに擁護してくれる人がいない事もダンが不利になる要素なのかもしれない。
「リンちゃん。少し話良い?」
ピョコルが難しい顔で話し掛けてきた。
「何ですか?」
「実はアイちゃんとアンちゃんがリンちゃんに話したい事があるって言っているの」
「あの2人が私に話したい事? 保育園を出て行けとかですか?」
「うーん……それが違うみたいなの。ダンさんが無実だって聞いたって言っているの」
「お父さんが無実? でもあの2人の父親のハガー将軍が私のお父さんを捕まえさせたんですよね?」
「そうだけど、だからこそ何か知っているのかもしれませんよ」
「分かりました。一度話を聞きたいと思います。それでどこで2人と会うんですか? 私、まだ保育園には行けそうにないですよね?」
「そうね、危険だからね。この家も監視されているし……」
「それなら私がアイとアンの2人を攫ってこようか?」
ペコルが物騒な事を言い出す。
「攫う必要はないんじゃないかしら? 私は反対よ」
ダルに哺乳瓶でお乳をあげながらパラルが反対する。パラルは病室のリャルルから毎日母乳を貰って持って来てくれていた。
「それなら他に怪しまれずに2人を連れ出せる様な案はあるのか?」
「誰か他に協力してくれる人がいれば……私達白兎3姉妹は警戒されているもの」
「タリア様は?」
「リンちゃん、そう簡単にタリア様には頼めないわ。特に今はライア様がリャルルさん排斥派の中心なのよ。それで擁護派のターガツ様とライア様に溝が出来ていてタリア様はその間を取り持つのに心を傷めているらしいわ」
「そうだ! バルナ! 白犀バルナならリャルルさんを尊敬しているし私達に協力してくれるんじゃないかな? バルナに2人を呼び出してもらって……」
「それが良いかも。特にアイちゃんはバルナさんに憧れているから、冒険者の訓練に誘うとかって理由ならハガー様も許可するでしょうね」
ペコルの提案にピョコルも納得。
「じゃあリンちゃん、それでいい?」
ダルにミルクを飲ませ終わったパラルが私に確認を取る。
「はい。お任せします」
「じゃあ、ペコルはバルナにピョコルはアアイちゃんとアンちゃんにそれぞれ伝えて」
「はい」
「うん」
2人はパラルに返事をすると家を出て行った。
「あまり期待しないでおきましょう。アイちゃんやアンちゃんが聞いたって話も多分何も証拠があるか分からない話だと思うから。前からタリア様などはリャルルさんを領主官邸の仕事から追い出したがっていたから聞いた話が嘘だと惚けるられるわよ」
「はい。分かりました」
パラルの言葉に短く答える。
「連れて来ました」
バルナがアイとアンを連れて白兎家に来たのは三日後。
「……別にアンタやあの魔女を助けたくて話す訳じゃないから!」
アイの最初の言葉はそれだった。
「私達は殺された白鼠族のチタリさんと仲が良かったから気にしてただけだよね」
「ええ、そう……チタリを殺した真犯人が捕まらないのが嫌なだけだから! アンタの父親が犯人だと疑われてるのは関係ないから!」
「それに私達の周りの人に話しても何も変わらないと思うからね。私達の周りの大人は大体リャルルさんを領主官邸から追い出したい人ばかりだからね」
アンはいつも通り冷静にアイもいつも通り感情的に話す。
「前置きはいいからリャルル様を助ける話をしてくれ、その話が信じられるものだったら私からタリア様に伝えて、タリア様からターガツ様に伝えてもらうから」
バルナが2人を急かせる。
「私達が聞いたのはお父様が話していた『ケニックとチタリを向かわせたのは失敗だった』『ケニックはチタリに恨みがあると後で知った』『あの2人を推薦した俺に責任があると言われては困る』そんな話よ」
「ケニックとは誰だ?」
「第一発見者でダンさんが犯人だと言い出した目撃者」
「チタリの父親の白鼠マタリとケニックの父親の茶鼠ケーリヒは商人で、二人で魔族の国との国境にある交易町に鉱石を売りに行ってケーリヒだけ戻って来なかった。魔族に攫われたとか殺されたとかいろんな噂はあったけどケニックは一人で帰って来たマタリを恨んでいたらしいわ」
「保育園の時、チタリとケニックの2人は仲が良かったと思ってたけど、ケニックはチタリの父親に復讐するために表面上は仲良くしてたみたい。チタリが領兵になった時、商人になるって言ってたケニックが急に領兵になって驚いたんだ」
「それで何で復讐したって事が分かる? 本当に仲が良かったかもしれないだろ?」
バルナは疑問を口にする。




