帰りたいけど帰れない人
ユズの店は賑わっていた。
結局、私達の貸し切りにはならずに店は通常通りに多くの客で直ぐに満席になってしまう。それでもベァーテスの食欲を満たし弁当の分を取り返すには十分な料理を食べる事が出来た。
私とアン、それにソルンもお腹いっぱいになるまで食べる。
「ユズの料理が一番!」
「ありがとぅソルン。じゃあお会計よろしくねぇクオ」
「まあまあ……まあまあまあ。これぐらいで済むなら……」
そう言ってクオは自分を納得させる様に頷きながらユズに支払いをしている。
「帰る」
そう一言放つとソルンは席を立つ。
「待ってぇ。ソルン、もう直ぐシエルが来るよぉ」
「そお……」
それだけ口にするとソルンは店の出口に向かって歩き出す。
「会ってかないのぉ?」
「別に、明日次の仕事ある」
「そぅ……残念」
ユズの言葉に答えずソルンが扉を開こうとして先に外から誰かが扉を開けた。
「おう! ソルンじゃん! 久しぶり!」
やたらテンションの高いボーイッシュな女性が顔を見せた。
「シエル、久しぶり。じゃあ」
「いやいやいや」
「じゃあ。バイバイ」
「いやいや、まあまあ。話そうよ!」
「シエル、私は帰る」
「いいからいいから」
シエルはソルンの肩を掴むとクルッと体を反対に向かせて背中を押して店の中へと入ってきた。
「シエル……」
「ユズ! いつもの!」
シエルはソルンの肩を下に押して席に座らせ、自分もその隣に座りユズに料理の注文をした。
「はぁいぃ。いつものねぇ」
そう言って二人の前に料理が運んでくる。
「もうユズも一緒に飲もう!」
「そうしようかなぁ。後はお願いねぇ」
「はい」
ユズは酒の入った自分のグラスを奧から持ってくると従業員達に店を任せてソルンをシエルと挟む様に横並びに座った。
「ほら、ソルンもグラス持って!」
「お腹いっぱいだし……」
「乾杯!」
「乾杯ぃ」
「…………」
カチン
3人のグラスがぶつかり音を立てて、シエルがグラスの酒を一気に飲み干す。
「ゆっくり飲むお酒よぉ」
ユズはチビチビとグラスに口を付けて少しずつ味わって飲む。
「そうだっけ? まあいいか、楽しいから!」
お酒が入って更にテンションが高くなった気がした。
「そろそろ帰る?」
隣のテーブルの3人の雰囲気に私は少し気後れしてしまう。
「ダメですよ。この店に来たのは料理を食べるためだけじゃないんですから」
「そうだった。アンの従姉の連絡先を聞かないと……」
そう言って隣のテーブルの楽しそうなユズと目が合う。
「ぅん?」
私と目が合うと少しセクシーにユズは首を傾けた。




