知らない間に突然の同行者
夜が明けて私達は首都エルへ向けて出発する。順調に行けば夕方には着く距離。
朝、早起きして町を出る前に最後にアダルと別れと感謝の挨拶をし、なぜか弁当を貰ってしまう。
土大領との領境の町を出るとそこには果ての見えない草原が広がっていた。
「ここは魔物が出ない特別な土地。本当かどうかは分からないけど魔王様と聖人様の不思議な力で守られているって言われているんだよね」
クオの説明を聞きながら私とアンはアダルがくれた弁当を食べる。
「私の分は食べないでくださいよ!」
前からベァーテスの声がした。
「分かってるよ」
「それなら馬車の操縦しながら食べれば?」
クオが弁当を一つ持つと前へ移動する。
「もう少しゆっくり走らせてよ。ここは馬車のスピードを出しちゃいけないからね」
「何で?」
「昔からそう決まってるの。何でかは知らないよ。多分、魔王様か聖人様が決めたんじゃない? ……操縦代わるよ。弁当食べな」
「お……うん……ありがとう」
前からクオとベァーテスのそんな会話が聞こえてきていた。
「それで、南側だったよね? アダルの先生がやってる鳥料理の店」
「だそうですね」
「どうする? クオに紹介してもらう?」
「どうなんでしょう。もう私がカウヨに会いに行く事は知られていますし、今更隠す事も無いのですが……クオの目的がハッキリしないとこれからもずっと疑いの目で見てしまいますよ?」
「クオが素直を話してくれると思う?」
「……無理です……かね?」
アンとコソコソ小声で話していると近くに気配を感じた。
「っ!!」
「こんにちは」
そこには紫色の衣装に三角帽子の女の子が立っていた。
「どこから乗って来たの!」
「え? 町から?」
「ずっといたの!」
「いたよ? 屋根の上に、おっと!」
そう言って少女は人差し指で上を指すが馬車が揺れて止まりよろける。
「困るよソルン隠れてる約束でしょ?」
私達の声に慌ててクオがベァーテスの所から戻って来た。
「だって美味しそうな匂いがしたんだもん!」
少女の目は私達の弁当に注がれている。
「分かったから、私の分を上げるから屋根の上に戻って」
「ええー!」
「ほら、これ上げるから! 早く!」
そう言ってクオは少女の背中を押して外に出す。
少女は外に出た瞬間、フワッと浮いて“トン”と屋根の上に降りた様だった。
「悪いね。成り行きで……『エルまで乗せて』って頼まれちゃって」
「それは良いけど、屋根の上でいいの? 良かったら中に入れてあげたら?」
クオは顔の前で無言で横に手を振り首も横に振る。
「いいの?」
少女が馬車の屋根の上から逆さに顔を覗かせた。




