戦争の火種
チュチュとクオの登場で筆頭執事のゴームレは大人しく私達の部屋を出て行った。
「本当にアーガン様は殺されたのですか?」
「分かりません……」
「殺されたかも分からないのに私達を疑ったのですか!」
ベァーテスが声を荒げる。
「それは本当に申し訳ない。だが、ゴームレの立場も分かってくれ。『領主が死んだ時に館に獣人族が泊まっていた』この話が拡がれば大変な事になる。最悪の場合……魔王国ルシと獣人族の国の間に新たな争いの火種が生まれてしまう」
チョチョは真っ直ぐベァーテスの目を見て答えた。
「だが私達は領主様の死に関与していない。護衛の私が証言する。タリアもアンも食事が終わってクオが部屋から出て行ってから一度もこの部屋から出ていない」
「それはそうなのでしょう……ですが……」
チョチョは言葉を濁す。
「タリア達がアーガン様を殺したか殺していないかは関係無いんだよ。ただ単に同じ館の中にいたと言う事実が憶測を呼ぶんだ。特に今でも獣人族に対して恨みの感情がある者達にとっては……獣人族と戦う口実が欲しいって言う者もいるって話」
クオがチョチョの代わりにそう説明した。
「では私達はどうしたら良いのです? 昨日からこの館に泊まっていた事は変え様の無い事実。今更昨日に戻って町を出て町の外で野宿する訳にはいきませんよ」
「それは分かっています」
「ではどうしろと? 私達が気に入らなかったなら館に泊めなければよかったでしょう。それか部屋の前に警備兵でも置いておけばよかったのでは?」
ベァーテスは少し喧嘩腰になってしまっている。
「別に私は使節団の方々を犯人に仕立て上げ様としたい訳ではありません。しかし、祖父アーガンが死んでしまって同日に同じ館に獣人族が板飛び込み言うのが問題になる可能性があると言っているのです。これは私達だけで無く貴女達のためでもあります。ですから……荷物を纏めて早く出発して欲しいのです。出来れば町の者達の目に着かない様に……そうしてもらえれば私達が貴女達が館には泊まらず昨日の内に旅立ったということ事にしますので……協力お願いできませんか?」
チョチョはそう言って頭を下げる。




