塀に囲まれた町
土大領の旅は思いの外早く進んだ。
それは街道の途中で特に寄る場所が無いからだろう。
常に野宿。擦れ違う人や馬車も急いでいるのか挨拶とかも無い。
「私が獣人族だからでしょうか……」
馬車を操縦するベァーテスがある夜、沈んだ顔で言う。
「何が?」
「馬車と擦れ違っても誰も挨拶をしてくれない……」
それまでの魅高領では魔人国であっても擦れ違う人に挨拶や獣人が珍しいのか馬車を停めて話をしてくる人達がけっこういたが、だが土大領に入ってからはそれが一度も無い。
「土大領ではそれが普通かな。特に魔族以外の商人や旅人は余計な揉め事を起こしたくないと思っているから、なるべく人との接触を避けているだけ」
クオからそう言われベァーテスは納得したように笑顔になった。
「着きましたね。ここが土大の町で間違い無いですよね?」
「そうここが土大の町」
私達が到着した場所は周りを巨大な塀が囲った町だった。
「ここも領主の館は町の外?」
「いや、ここの領主の館は町の中心にあるよ。この町は領主の土魔法で町全体を囲っているからね」
「何で他の町は同じ様に町を塀で囲わないの?」
「それだと町を大きく出来ないでしょ」
「確かにそうか……」
私はクオの言葉でこの町が魅高の町に比べて小さい事に気付く。
「ここの町以外は領主の館が町の外にあって、そこくらいまでなら町を拡げられるって目印でもあるんだよ。領主の魔力が魔物から守り切れる範囲って理由でね」
「そんな理由で町の大きさや領主の館の場所が決まってたんだ!」
クオを説明で私はまた魔族の造った町の事を新たに知る。
「じゃあ領主の館に向かう?」
「今から?」
「そうだけど?」
「もう暗くなるよ?」
「だから、今夜は領主の館に泊まるんだよ」
「え?」
「え!」
私達はクオの思いがけない言葉に驚く。
「大丈夫……と言うかこの町の宿は魔族以外は泊まれないから。獣人族の国からの使節団だと言って泊めてもらうんだよ。それじゃ無いと私以外、町の塀の外でまた今日も野宿になるけど? それでも良いの?」
「野宿……」
「野宿か……」
「久しぶりにベッドで寝たい……」
私の『ベッドで寝たい』の言葉にアンもベァーテスも頷いてクオの案内で町の中心にある領主の館へと向かうのだった。




