老害のアーガン
「大土アーガンって所謂……老害なんだよね。本当は子供に大土家の当主と土大領の領主を譲るべきなのに、未だにその地位を譲ろうとしないんだ。だから土大領は取り残されてしまう」
「何? 取り残されるって」
「言葉の通り、土大領は他の魔貴族領に比べて住み難いって言われてるんだ」
「そうなの? 例えばどんなところが?」
「アーガン様は聖人様の影響を極端に嫌っているところがあって、土大領では未だに聖人様の造ったとされる銃や飛行艇が基本的に禁止されている。他にも食べ物でも禁止されている物があったり、便利な物でも聖人様や人族の発明した物を軽視した風潮があったりね」
クオは何とも言えない顔でそう語った。
「だから気を付けてよ。獣人には旅しにくいかもしれないから」
「気を付けるわ。あれ? でもクオは私を領主に会わせるつもりじゃなかったの?」
「領主には私が一人で挨拶だけするつもり。本命は領主代行のチョチョ、大土チョチョに会うのが目的だから。タリアにはチョチョと会わせるつもり」
「その人はどんな人?」
「大土チョチョは昔、魔王様に使えていたアーガンの孫の大土ツキ様の娘にあたる魔族。大土ツキは今は闇黄ツキと名乗って首都エルで魔族軍の総参謀長をしている人だよ」
「魔族軍の総参謀長の娘! それなら魔族軍が作ろうとしている組織……あっ……」
「ああ、あれね。ツキ様の最近生まれた子供を新たな魔王として世界を統一しようとしている王国の事でしょ。『魔族だけじゃなく人族も獣人族も亜人もエルフも竜人も魔王の下に』って言ってる」
「そんな事言ってるの?」
「そうだよ。ねえタリアはどこで王国の事を聞いたの?」
「私は……」
私は言葉を詰まらせアンを見てしまう。
「ああ、確か犬族が王国に参加してるって……そうかそうか犬族……知り合いだったんだ。へえー」
「知り合いだったら何?」
「別に。『知り合いが王国にいるんだな』って思っただけだよ。フフ……」
アンはクオを睨み、クオは惚けた様に笑って誤魔化す。
『これはアンがカウヨと会うの難しいかも……』
「もしかしたら私が久しぶりに従姉に会うのがいけないって思ってるの?」
「別に。従姉に会えるなら良いんじゃない? それにアンが王国に従姉の話を聞いて王国に参加してもどうとも思わないよ。私は気にしてないから。秘密にする必要も無いからね。フフフ」
「貴女達は何を企んでいるの?」
「企むって人聞きが悪いな。私はピオネの中央共和国でも王国でも戦いが無くなればどっちでも良いだけだよ。フフフ」
クオはそう言って笑う。
『本当なのかな?』
私は笑うクオを見てどこか心に引っ掛かるものを感じていた。




