クオが紹介した宿
クオの取ってくれた宿は町の中心部に近い高級宿だった。
「ここ……高くない?」
「それなりですよ」
「それなりって……」
「タリアは白山領の大使ですよね? それならそれなりの宿でないとと思ったんですけど」
「それは……」
「旅の資金は白山領から出るんでしょ? それなら少しくらい贅沢しても良いんじゃない?」
「勝手な事言わないで!」
アンが怒鳴った。
「どうして? もしかして旅の資金が余ったら貴女達のお小遣いにする気なの?」
「それは違うけど! 私達は贅沢するために……」
「冗談ですよ。ここの宿は知り合いの宿なので安くしてもらったんですよ。だから私の奢りだから安心して。ハハハ」
「知り合いですか……ですがキチンと料金は払わせてもらいますよ」
「そうですか……それでは私の我が儘を聞いてもらって良いですか?」
「我が儘?」
「そうです。ここから風大領に行くまでに通る各町で私の用事を済ませる間、皆さんには少し待っていて欲しいのです」
「それはどのくらい? 毎回何週間も待つのは難しいよ?」
「各町で一日程度でいいので……」
「それなら、まあ良いかな。アンとバァーテスはそれで良い?」
「私は構いません」
「一日くらいなら。私達もその間に買い物とかしてても良いだろうし……ね」
バァーテスとアンも了承してくれた。
「では受付に……」
クオは笑顔で頷くと私達を宿の中に案内してくれた。
クオの紹介で泊まった宿は普通の宿とそれほど値段が変わらないものだった。
部屋は一人ひとり個室で食事もなかなかの物。ベッドもふかふか。
『言うこと無し! 本当にタダで泊まって良いのだろうか……』
そう思いながら少し早起きした私はみんなが来るのを馬車の中で待つ事にした。
「おはよう」
馬車には既にクオが待っていた。
「おはよう。早起きなの?」
「ええ。私はいつもこの時間です。それに今日は早速寄り道を……」
「寄り道をするの?」
「昨日話した用事です」
「そうなの? それじゃ私達は今日一日買い物でも……」
「そうだ! 良ければタリアも一緒に来ませんか?」
「用事あるんでしょ?」
「ええ、私の用事は各町の領主に挨拶して中央共和国に協力してくれる様に話に行くんです。なのでタリアも一緒にどうかと思って。白山領の使節団なら各地の魔族に挨拶しておいた方が良いですよね」
「確かにそうかも。別に魔族と仲良くなるのは悪い事では無いわね。アン達と相談してみるわ」
そう言って私はアンとバァーテスが起きて来るのを待った。




