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第2話 アブダクション

「ここどこだ」

「間違いなく惑星ドゥームズじゃないな。

……アブダクションかよ」

「発生確率0.1%のイベントとか考慮してなかったんだけど。

これ、サポートロイド居なかったらヤバかったかもな」

「ゲームの仕様が現実にも適用されているとは思えないから、サポートロイドの提案はナイスだった。……そしてこの状況でお前がいることにマジで感謝」


地面に降り立った自分達の目の前に広がる光景は、綺麗な和風建築の建造物が立ち並ぶ美しい街並みではなく、真っ黒に染め上げられた場所。駅みたいな建物も、ビルみたいな建物も、全部真っ黒だ。


……いやまあ一応輪郭とか分かるし、黒に近い灰色か。間違いなくシャドウに侵食された惑星の1つで、シャドウの拠点の1つなのだろう。


恐らく今起きたのは、アブダクションと呼ばれるゲーム中のイベントだ。クエストを受注し、いざ目標の惑星へ降下しようとしたタイミングでシャドウに拉致され、シャドウの拠点に招待されるイベント。基本的には5分耐えることで救援ポータルが届き、脱出する流れだ。


遭遇確率は通常時だと0.1%。アブダクションウィークとかいうありがたくない期間だけレアドロップ率+200%とセットで1%になる。あとは特定のクエストを連続でクリアし続けるとアブダクション確率が上がったかな。


敵の経験値が高く、ドロップ品の質も良好と旨味は全くないわけでもないのだが、基本的には高レベルな敵がわんさか出て来るからソロの時とかだと非常に辛い。カチ勢の自分的にはひたすら自キャラがフルボッコされるのを見守るイベントでした。雑魚しか出ないから死にようはないが、ユリクリウスはちょっと不味い。


「事象:アブダクションを確認。

……救援ポータル設置まで23分かかるようです」

「うわわ、これマジヤバくね?」


ユリクリウスのサポートロイドのサタンちゃんがマジヤバくね?と呟くが、実際ヤバイ。しかも耐久する時間が23分とか聞いてない。ゲームでは5分だったのに、何でそんなに時間かかるのってそりゃ現実だからだよ!


そしてシャドウと呼ばれる敵が出て来るけど、レベル126って何?こちらのレベル120なんだけど。敵のレベル上限って120までだったよね?いや敵の方がレベル高くても何とかなるのがこのゲームだけど、100レべ以降は1レべ毎のHP上昇幅が大きいから126レべはかなり硬いんじゃ?


この光景を見て、ユリクリウスはかなり顔色を悪くしている。火力特化型である以上、耐久は並み。火力特化型で耐久も並み程度あるのがユリクリウスの凄いところだが、ゲームの世界が現実となった今、ゲームの時のような動きが出来るとは思えない。


ユリクリウスを守るように立ち、サポートロイドのコッペパンにユリクリウスの援護をするよう言っておく。コッペパンのクラスはアーチャー/ナイトで敵に攻撃力弱体化の弓矢を打ち続ける、デバフを撒くだけの存在にしている。この状況で、一番の当たりとも言えるクラス構成だろう。


さて、ソードマンのメインスキルであるガードスタイルを起動。これにより、ガードスタイル本来の性能で被ダメ4割カット。武器と防具に仕込んでいる特殊能力で被ダメ4割カット。合わせると被ダメは36%にまで軽減できる上にHPが1000増える。これでHPは5150だし、即座にアイテムバッグからHPドリンクを摂取。HP2割増+被ダメ1割カットの効果のため、HPは6180だ。


ドーピングした次の瞬間、黒い人影のようなシャドウから黒い弾をぶつけられるがステータスを見ると6179/6180。基礎防御が高いから、雑魚敵からの攻撃は元からずっと1である。またカマキリみたいなシャドウも襲って来るが、鋭い鎌で斬られてもダメージ1って光景はなんか気味が悪い。実は最初の一撃を受けるまで、ビビり散らかしていたのは内緒である。


そして敵の攻撃の直後、HPが100回復する演出が入る。ナイトの自動回復スキルで、1秒毎にHPの1%が回復するが上限は50なので50しか回復しない。次に武器のスキルにある活力増幅の効果で同じようにHPの1%を回復、上限50回復するから、合計で1秒に100回復するということだ。


お、静止していたからか支援魔法が入った。これで攻撃と防御系のステは全て1割アップ。ついでナイトのスキルであるヘイト上昇スキルを起動。次の瞬間、取り囲んでいたシャドウたちのヘイトが全てこちらを向いた。よし、これで後は23分耐えるだけ。


「ゲッカエンド!」


ひたすらシャドウを引き連れてタコ殴りにされていたら、ユリクリウスが丁寧に一体ずつ敵を葬っていた。MPを30消費して使用する技、ゲッカエンドの弐式だなあれ。ゲッカエンドは零式、壱式、弐式、参式のどれかに技を強化することが出来るが、弐式は威力増強、チャージ時間増のやつだったはず。


ゲッカエンドそのもののモーションは刀による単純な突きなので、ゲームが現実となったこの世界では使い易い技だろう。雑魚敵を一匹ずつでも処理してくれるのは助かる。現状、20体以上の敵がフルボッコしてきているからな。


元からチャージ時間が長いので、誰かがモンスターをトレインしている状況かボスがダウンした状況でしか使えない技だが、威力は絶大だ。126レべでHPが盛られまくっているはずのシャドウが一撃で死んでいる。頭という弱点を狙っているし、急所狙いも発動しているから恐らく1000万以上のダメージが出ているだろう。


1レべの体力は200ぐらいしかない雑魚敵NPC。しかし100レべを超えるとHPは200万になるし、120レべだと400万。100レべから120レべまでの倍率と同じなら126レべは520万とかやってられねー。


一方の自分も、剣を振り回す技を起動。その名もエンドクラッシュ。技の強化は効果範囲増大の壱式。格好いい名前だが性能は微妙。ただ、こういう1対多の時は使い易い。


何せ技の始動から終了まで操作キャラは右手以外一切動かず、右から左へ巨大化させた剣を振り、左から右へ巨大化させた剣を振り、最後に上から振り下ろすこの技は巻き込み範囲が非常に広い。なおダメージ量は微妙な模様。50万、50万、100万ってところか。MP消費50に対して明らかに割に合わない。


ちなみに主観的初心者死因第1位が「エンドぶんぶん中タコ殴られ死だ」初心者は最初、ソードマンから始まるからな。ソードを持って、敵に囲まれた状況。打開するために大技を使用したら敵からの攻撃を一切躱せない状況に突入してタコ殴りにされる。そして初床ペロ。初心者ならわりと多くの人が通る道だ。


ついでに言うと、床ペロとはHPが0になって床に倒れ伏すことを指す。死んだプレイヤーは床に倒れ伏していることから床を舐める=死ぬというこのゲームのスラングのようなものだ。ゲームの世界ならすぐに格安の蘇生アイテムで復帰できるが、どうやらこの世界ではHP全損=死らしい。まあそうじゃなきゃまず主人公に該当する人物が死から復帰してるわな。


そうこうしていると、10分が経過。時々ヘイト上昇スキルを使用し、赤く光ってるだけで何とかなるから大丈夫そうだなと思ったところで、メカの身体をした巨大なカブトムシが出現した。第1章のボス、量産型メカビートルだ。


……は?


「アブダクションに何でボスキャラがいるんだよ!」

「知らねえよ!ここが拠点だからだろ!?

くそ、ウォークライ!こっちだ!」


速攻でヘイト上昇スキルを使用し、自分が攻撃するが全く効いていない気がする。このメカビートル、120レべでHPは12億ある。単純計算で126レべなら13億はあるな。12人で倒すようなボスだから、この体力は絶望的な数字だ。


「GGGGGGGGGGGGUUUUUUUUUUUUUUUUUUOOOOOOOOOOOOOOO」

「ヤバイって、何でいきなり最終砲撃とうとしてるんだよ……」

「全フィールド攻撃って俺に死ねってことかよ!?」

「よし、落ち着け。自分の影に隠れろ。現実なら恐らく放射状だ」


そして唐突に、メカビートルは飛び上がり奇声を発してエネルギーを蓄え始める。HPが残り2割を切った時の、メカビートルの特殊行動だ。内容はフィールド全面にエネルギー砲を発射すること。紙耐久は死ぬ。


ゲームなら逃げ場などないので、その前にメカビートルの眼前にあるエネルギー球を破壊する行動が必要になるが恐らくあのエネルギー球、HP1億近くはあるはず。そんなの2人で発射前に破壊し切れるわけないでしょ。


なのでユリクリウスとコッペパンとサタンちゃんを守るようにして立ち、エネルギー珠が眼前に落ちて来るのを待つ。大きな剣を盾にして、少しでも衝撃波が後ろに伝わらないようにする。直後、巨大なエネルギー球が目の前に降ってきて破裂した。


HPがゴリゴリ減っていく。一度のダメージ発生で130程度HPが削れているな。そのダメージ発生が10連続で起きてHPは1300ほど減る。その後すぐに回復していくけど、これ生半可な耐久力なら一度のダメージ発生で1000は減るから合計で10000ダメ。当然即死だ。


「大丈夫か⁉︎」

「ダメージ発生が無かったから大丈夫だ。

というか未だにゲーム内でトップクラスの威力の最終砲を受けて何でHP半分以上残ってるんだよ……」

「回復薬オートは起動しなかったぞ」

「こっわ。

と、それよりダウン状態だ。攻撃入れて来る」


後ろを振り返るとユリクリウスとサポートロイド達の無事を確認する。まあ物理的に衝撃波が届かない範囲だったからゲームとは違って生き残れたのだろう。その後、最終砲を撃ったメカビはダウン状態に入る。


この最終砲モーション、メカビートルの眼の前でエネルギー球を破壊してもDPSが足りなくて撃たれても、メカビートルにもダメージが入る仕様にゲームではなっていた。あの威力だと、恐らく現実でも反動があるはず。本来なら敵同士の攻撃って当たらないはずなんだけど、雑魚敵はさっきの一発で全員消し飛んだし。


ゲッカエンドの構えをして、突く。これをユリクリウスが5回繰り返したところで、メカビートルは赤い光になって消える。それと同時にレベルアップのファンファーレが脳内に鳴るけど、やっぱりレベル上限解放されてるなこれ。下手したらレベル上限ないかも。


そしてメカビートルの周囲にアイテムが散乱するので回収。何でゲームのようにアイテムが散乱するのかは謎だけど回収するべきものはさっさと回収する。うーん、経験値+100%はもう腐るほど持っているんだよなぁ。


武器のビートルソードもたぶん今までに1000本以上回収してるな。っと、アブダクション産だからかオールステアップⅤがついてる。まぁまぁの当たりだ。


「ドロップ品はゲームと変わらなさそうだな。

……どうした?」

「……なんかスロット1アイテムの二刀流って奴が出た」

「明らかに主人公属性のレアドロップしてて草」


シャドウのおかわりが来ないか警戒しながらドロップ品を確認していると、スロット1の特殊能力追加アイテムをユリクリウスが拾っていた。この手のアイテムは貴重で、時にはとんでもない価格で売れることがある。


……ユリクリウスの言った二刀流なんて特殊能力は聞いたことがないので、まあゲームが現実になった影響だと考えておこう。早速ユリクリウスが効果も見ずに使用して、現在の装備のスロット1を通常攻撃威力15%アップから二刀流に交換すると、武器装備スロットが1つ増えたと報告を受ける。どう見てもぶっ壊れスキルじゃねーか。4つしか持てない装備を、スロット1つで5つに増やせるとか存在がバグってる。


これ、コイツが主人公で良いんじゃないかな?ということは自分は大いなる闇との戦いでサボれそうだし、ひたすら応援でもしておこうか。

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