第8話 非戦闘職の僕に抵抗などできる訳がなく
「あの……ハネさん。ここは?」
「ここは客室だよ。今日はミアはここで寝て欲しい。おいおい、ミアの部屋は用意するから。寝具とか、衣服とか、色々と買い揃えないとね」
「その……私も初めてですし。その、した後には疲れると思うので、できればそのまま寝たいのですが。一緒のベッドで寝かせて頂く事はできないでしょうか?」
前半は、今日はたくさんレベルアップしたから、すぐに寝たいって事だよね。
疲れるもんね。
僕もくたくただ。
それが初めてであればなおさらだ。
レベルが最初2に上がった時のだるさと言ったら。
が、後半との繋がりが不明だ。
「ちゃんと別の部屋があって、別のベッドがあるんだから、そっちで寝れば良いと思うんだけど?」
「……分かりました。では、ハネさんのお部屋に参りましょうか」
「何で!?」
話の繋がりが見えない。
どうして僕の部屋に来るの!?
別に見られて困る物もないから、部屋を見せる事自体は構わないのだけど。
「部屋を見せるのは明日の朝で良い?ミアも疲れてるって言ったよね」
「疲れていても大丈夫です!その……怖さがないと言えば嘘になりますが、嫌ではなくて……お願いします!」
僕の部屋を見るのがそんなに怖いの!?
僕は何だと思われているの!?
「駄目だよ。とりあえず今日は寝よう」
ミアは、不満げに頬を膨らますと、
「えいっ」
「わっ!?」
何故か、上着の前をはだけた。
どういうこと!?
「ど……どうですか!」
「ど、どうとは?」
慌てて視線を逸らす。
ミアが、そっと近づき、耳元に顔を寄せる。
というか、凄い力!?
ステータス発揮してるよね!
非戦闘職の僕に抵抗などできる訳がなく。
「伝承によると、異世界から召喚した勇者様達は、皆童貞で、こういう事を非常に好む、と。我々の容姿は、特に有効だとか。これでも私は、元の世界では、傾国の美女と呼ばれていました。身体つきも、お気に召して頂ける筈……どうですか!」
いや。
「ようやくミアの狙いが分かった気がするけれど……答えはノーだよ。もっと自分を大切にして欲しい。もっとお互いの事を良く知って、お互いに好きになって……その延長線上にこういう行為はあるんだと思う。お互いの気持ちが高まる前にこういった事をしても……不幸にしかならないよ」
「大丈夫です!気持ちなんて、後からついてきます!」
「後から後悔しても遅いよ。ねえ、ミア。時間はあるんだからさ。焦らなくて良いよ。別に、君を追い出したりはしないし……というか、君の戦闘能力は素晴らしい。僕は君の秘密も守れるし……君とは長くつきあっていきたい。だからさ、焦らないで」
「ハネさん……」
ミアが離れる。
僕は、ミアから視線を外したままで。
つい、余計な事と思いつつ、虚勢を張る。
「それにさ。証拠もなしに童貞と決めつけないでくれないかな」
なけなしのプライド。
--
ミアのサポートは、リアに頼んだ。
リアが、ミアに文字を教えてくれるらしい。
必要に応じてマナを使用させてほしい。
リアの確認に、承認を与えてある。
どう使うのかは知らないけれど。
「どうした、羽修。疲れた顔をしているな」
「龍二……ちょっと、私生活でトラブルがあってね」
「……何故か、モテて大変な目にあった感が出ているんだが……栗原や模合と何かあったのか?」
何故栗原や模合が出てくる?
「まあ大丈夫だよ。今晩には解決する予定」
「まあ……今日は特別演習だ。無理はしないようにな」
特別演習。
いつもの、練習用ダンジョンと違い。
新しいダンジョンに繋げて、攻略を試みる。
ちなみに、入手物の私物化は法律違反。
が、持ち帰った物を評価し、それが成績に繋がるので、普段とは違い、収集も行う。
うちは、模合がトラップや魔物をサーチできるので、問題はない。
が、バランスが悪いPTだと本当に危険となる。
教師が警護についたりはしないので、無理はしないように生徒に厳命される。
各異世界船の航路は、親端末に記録されるので、最悪の事態になれば、救護要員が派遣される。
「新しく増えたスキル、楽しみにしておいて」
「……昨日のスキルだけでも十分チートだったんだが……また増えたのか……?本当に晩成型だったんだな」
龍二が、半ば呆れた様な声を出した。
いや、チート集団の一角が何を言ってるの。
--
ずずん ずずん
サイクロプス。
距離的に、出てくる敵じゃないんだけど。
これは、ハズレ引いた気がする。
「どうしよう?」
「まあ、余裕だろ」
僕が警戒しながら問うと、龍二が告げる。
流石エリート。
でも。
「危ないと思ったらすぐに撤退。船まで退避で」
「大丈夫だって言ってるでしょ」
栗原が呆れた様に言う。
その自信の根拠は何!?