第5話 猿耳
「マイナス……」
『だからちゃんと採取して下さいと申し上げたのに……あのドラゴンさえ採取できていれば、100万にはなりましたよ』
「……倒せるの?」
『無理ですね』
目的地設定ミスだと思う。
「あの、すみません、助けて頂き。食事も分けて頂いて」
さて。
思いがけず、美少女を助けたのだけど。
だけど。
ぴょこん
その。
頭に乗っている、愛らしい猫耳は、何ですか?
耳もついてないしね。
うん。
「その……ここって、異世界、でしょうか?」
「やっぱり。という事は君は、異世界の人、なのかな?」
異世界人。
異世界船のお陰で異世界に行けるようになって半世紀。
が。
異世界人との遭遇は、報告されていなかった。
勿論、報告されてないだけかも知れないけれど。
「そう……だと思います。私のいた世界では、異世界から勇者の方を召喚する事があって……その中には、猿から進化した人間もいたと聞いております」
少女は目を伏せ、すっと顔を上げると、
「あの……改めて、助けて頂きありがとうございました」
「異世界に引き込んでしまったけれどね。あのダンジョンに再度いけるだけの燃料は厳しいし、君を元の世界に戻すのは難しそうだ」
「大丈夫です。もともと、あのダンジョンから元の世界には帰れません。その……事情があって、命の危険から逃れるために時空の裂け目に。そうして辿り着いた先が、あのダンジョンだったんです」
「……それであんな所に、そして身の丈に合わない魔物に追われていたのか」
身の丈に合わない所に採取にでかけた僕の台詞ではないけれど。
「私の名前は、ミア=ミル=リモネイル。ミアと及び下さい」
「うん、よろしくミア。この世界に身寄りはないと思うから……僕の手伝いをしてくれたら良いかな。衣食住は保証するよ」
「手伝い……その……私、家事は苦手でして」
おっと。
「じゃあ、ダンジョンでサポートしてくれるかな」
「すみません……私、戦闘能力皆無なんです」
ちょ。
「えっと……?」
「あの……頑張って家事を覚えます……あと……夜伽のお相手でしたら」
「家事を覚えてくれたら良いよ」
本当に何でもする気だった!?
それに。
「今までダンジョンに入った事がなかったのなら、能力増えてないかな?」
「え?」
生まれたばかりの人は、普通の人間だ。
当然、魔法もステータスの強化もスキルも、何もない。
ダンジョンに入り、出る。
その時に、次元の差が何か影響するらしく、職業やスキルが増えるのだ。
自分のステータスが見られるようになるのも、この後だ。
「ステータス、と心の中で念じてみて。能力値、とか何でも良いみたいだけど」
「は、はい……うわ、出ました」
「能力を得たのなら、ダンジョン探索を手伝って欲しい。僕は弱いから、多分僕よりは強いと思うけど……」
どんな職業を得たんだろう?
プリンセスとかだったりして。
王族っぽいし。
「えっと……レベル1、聖女、ステータス補正も結構高いみたいです……光魔法、聖魔法、秘蹟が使えるみたいです」
「……創作の中では良く聞く職業だけど、知り合いにはいないかなー」
超レア職業引き当ててる。
もっとも、ミア自身が超レアなんだけど。
色々な意味で、世間にばれると騒ぎになるな。
「その耳も、職業も、隠して生活した方が良いかもね……」
「ですね……」
ミアは、困惑したように、
「勇者様や聖女様を異世界から召喚した伝承は残っていますが。まさか自分が逆の立場になるとは思っていませんでした」
次元の差で能力が発現。
案外、異世界召喚の際の世界移動と、ダンジョンに入って脱出というのは、同じ原理なのかもしれない。
「あの……これから、よろしくお願いします」
ミアが、上目遣いにそう告げた。